日本語教育の新たな礎に 国際交流基金とTESDAが議定書締結
国際交流基金マニラ日本文化センターとTESDAが、「日本語教育の支援に関する議定書の締結式を行った
首都圏タギッグ市にある技術教育技能開発庁(TESDA)本部で17日、国際交流基金マニラ日本文化センター(JFM)と同庁が、日本語教育の支援に関する議定書(MOA)の締結式を行った。鈴木勉同センター所長と在フィリピン日本大使館からは鈴木勇紀一等書記官らが参加、TESDAからはホセ・ベニテス長官やフェリザルド・コロンボ副長官らが参加した。
MOAには、大筋としてJFMがTESDAに協力して作成した「能力基準書(CS)と能力別カリキュラム(CBC)の改定の支援」、および「改定後のCSとCBCによる人材育成」が盛り込まれた。具体的には、①「ヨーロッパ言語共通参照枠」(CEFR)に沿って作成された改定後のCSおよびCBCの普及②CEFRの概念や「学習者を主体とした教え方」(learerーCentered Teaching)を理解し、それを実践できる日本語教師の人材育成――を内容としている。さらに細かいTESDA側のプロジェクトとしては、①CSとCBCの継続的な開発に協力し、CSとCBCをフィリピン全国に普及させる②TESDAの教育センター全体で日本語と日本文化のプログラムを推進する③比人労働者の基準と国際競争力を確保するため、トレーナーの能力開発に協力する――と定められている。
日本語教育界においては、現在、日本語教育担当が外国人労働者に対して力を入れているのは、日本語に関する知識(文法、語彙など)を豊富に持つ人材の育成ではなく、日本で生活したり働いたりする上で支障のない日本語能力を持つ人材の育成、その人材を育成する現地日本語教師の能力強化を目指した施策であると言われている。
締結式ではコロンボ副長官の開会宣言の後、鈴木所長がMOA締結式に関して決意表明を述べた。鈴木所長は、「この締結式は、フィリピンと日本の強い絆と友好関係を育み、フィリピン人がグローバルな社会で成功するための高度な日本語能力を身につけることを支援するTESDAとJFMの決意を示すもの。双方が強力な協力関係を築き、CSとCBCを推進するための重要な一歩となる」と議定書の意義を強調した。また、「TESDAの国立語学スキルセンター(NLSC)の中心的な日本語トレーナーの指導スキルの向上に取り組んできており、今年9月にTESDAで開催された合同の『いろどり・ワークショップ』で結実した。来年以降も、このような合同ワークショップを開催することを楽しみにしている」と期待を示した。NLSCは、比人移民労働者の競争力と雇用可能性をさらに高めるために、語学力と職場文化の理解が重要であるという政府の認識に沿って2007年に設立されたTESDAの専門トレーニングセンターの1つ。NLSCは長年にわたり、就業準備の整った比人労働者が海外の職場文化や新しい環境に溶け込めるように、質の高い語学力のトレーニングを提供することで、業界の言語能力に応え、対処することに尽力してきた。
さらに、鈴木所長はスピーチで、「JFMは日本語教育を通じて日比の文化の架け橋となり、相互理解を促進していくことを使命としている。TESDAとの協力関係はこの使命を反映したもの。MOA締結式を通じて、今後もTESDAとの協力関係が発展し、多くの人々にとって有意義な機会が生まれるよう期待する」と力説した。
一方、ベニテス長官も、鈴木所長の決意表明を受けて、「MOA締結式を通じてJFMとの協力関係が強化され、日本語教育とフィリピン人労働者の能力開発と育成が益々発展することに期待を寄せている」と歓迎の意を示した。TESDA側はJFMとMOAを締結することで、日本語カリキュラムが国際基準に沿っていることを保証し、日本語TVETトレーナーの能力をさらに高めて労働力の準備と国際競争力を保証するための継続的な協力関係を制度化し強化したいと考えているという。
締結式に参加していた日本語教師の一人、マリセル・ビナミルさんは、「私も日本語教育と人材育成プログラムのおかげで外国人技能研修生として3年間愛知県でプラスチック成型の仕事を経験できた。現在、日本語教師をやっているのはその時の喜びをフィリピンの若い人たちに味あわせてあげたいため。TESDAが主催する各国の語学教育の中で日本語を希望する人たちが一番多い。今回のMOA締結式がさらに多くのフィリピン人にとって日本語能力と労働力を身につける良き機会になればよいと期待している」と言いながら目を輝かせていた。
また、エドガルド・ペニャフロリダさんは、「私も日本の山口県に行き溶接工として仕送りを待つ家族のために働くことができた。それは素晴らしい経験。日本は素晴らしい。だから今後も日本語教育のために尽力したい」と力強く語った。
▽TESDAとJFMの責任も明確化
MOAでは、TESDA側の責任がかなり明確化されている。具体的には、①TESDAのCSへの統合協力のために、マニラ文化センターの日本語能力に関する「モジュール」を通じて育成されている能力をレビューし計画する②言語学習や教授法、評価に関する現行国際基準に沿った日本語教育のA1、A2、B1レベルのCSとCBCの改定を行なう③主導ファシリテーターやトレーナー向けに、新たに改定されたCSおよびCBCに関する能力開発セミナーを実施する、ことなどが定められた。この能力開発セミナーに関しては、TESDA側はさっそく2025年度の能力開発構築セミナー実施計画を策定することとなっている。
一方、JFM側もTESDAが責任を果たせるように、①フィリピン人の雇用可能性を高めるために日本語能力可能性を高める研修ニーズやスキル要件を特定する②CSとCBCの開発と定期的なレビューにおいて業界の専門家を特定し、承認する③両当事者の締結する承認済みの業務委託条件に従って、新たに改定されたCSとCBCに関連する教師研修セミナーまたはコースにTESDA関係者を招待する④TESDAによる能力開発セミナーの実施を支援する――などが決まっている。
また、セミナーの実施支援のために、「セミナー運営に業界の専門家を推薦する」、「セミナーで使用する学習教材の品質を監督する」、「セミナー参加者に『いろどり』サンプルを配布する」、「セミナーの品質を監督するために日本語アドバイザーを任命する」などの業務も細かく策定されている。(萩原裕之)