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10月22日のまにら新聞から

ユニークな取り組み着実に成果 沖縄発の比人介護人材育成

[ 2052字|2024.10.22|社会 (society) ]

沖縄県の介護事業者協同組合が独自に行うフィリピン人留学支援・介護士育成の取り組みが、着実に成果

(右)昨年、介護福祉士試験に現役合格を果たしたロニー・ブアンさん。卒業式では文字通りフィリピン国旗を背負って出席した=屋良理事提供。(左)留学前日本語研修(初日)に参加した候補生ら=10月14日、首都圏マカティ市「PJリンク・ランゲージセンター」で竹下友章撮影

 沖縄県の事業者協同組合による、ユニークなフィリピン人介護人材育成の取り組みが、着実に成果を上げている。沖縄県の介護職の人手不足に対応するため、沖縄県の4介護事業者が「沖縄県外国人介護事業協同組合」(與那嶺康理事長、現在13組合員に増加)を立ち上げたのは2018年。同組合が行うのは、日比経済連携協定(JPEPA、2008年)による介護福祉士候補生の受け入れとは異なる、独自の取り組みだ。

 まず比人応募者を留学生として受け入れ、沖縄県の日本語学校・介護福祉専門学校での就学をサポート、組合員事業所で就労しながら、同時に国家資格・介護福祉士の取得を支援する8年間のプログラムだ。この取り組みの特色は、8年のプログラムを終了すれば、介護福祉士資格が与えられる点。プログラム創設に当たっては、沖縄出身の下地幹郎元衆議院議員(元郵政民営化担当大臣)が、沖縄県や厚生労働省、入国管理局、在比日本国大使館などの政府機関との折衝・調整に尽力した。

 これまで沖縄に送り出した留学生は53人。うち29人が既に専門学校を卒業し、5人が国家試験に合格(3人が現役合格)して介護福祉士となった。8年のプログラム終了を待たずに、専門学校卒業生の資格取得率は17・2%に上っている。結婚などの理由で離脱する者が数人出たが、現在43人が就学・就労する。

 フィリピンからの留学生派遣を担うNGO「NANKURU INTERNATIONAL、INC」の設立、第一期生派遣に関する各種費用の立て替えなど、立ち上げ時から関わってきた同組合の屋良朝彦理事は、「低賃金の外国人労働者の受け入れでなく、日本人の上に立って働ける介護分野のリーダー育成を目指ている」と強調する。

 そのために重要なのは、真に意欲のある応募者の選定だ。7年目を迎えた今年は約50人が応募。それを書類審査で半分まで絞り、将来の雇用主となる組合員事業者の代表らが来比して直接面接、9月に10人あまりを選抜した。7年の経験から、都会育ちの応募者の方が座学に強い傾向があることや、大学はストレートで卒業した人でないと在留資格認定証明書の取得がうまくいかないことがあるなど、選抜ノウハウも蓄積した。

 留学予定者はまず首都圏マカティ市で寮生活をしながら、同市にある語学学校「PJリンク・ランゲージセンター」で5カ月・250時間の集中的な日本語教育を受け、日本語能力検定試験(JLPT)5級(N5)相当の日本語力を身につける。遅刻や無断欠席など授業態度が、そのまま日本での就学・勤務態度となることが経験から分かっているため、そうした情報も共有するなど、沖縄の協同組合側と緊密に連携する。

 比での語学研修後、候補生は留学生として1年沖縄の語学学校で就学。日本語をN4レベルに伸ばす。同時に留学生ビザで可能な週28時間の就労(アルバイト)を組合員の事業所で行う。その後、介護専門学校を受験。日本人学生と一緒に2年間介護を学ぶ。学費は組合と日本政府が半分ずつ貸与。専門学校卒業後は介護士ビザを取得し、アルバイト先の介護事業所に正規雇用され、そこでさらに5年働く契約だ。介護士候補生は専門学校最終年から毎年介護福祉士試験を受験できるが、プログラム終了の8年目には実務経験者として介護福祉士資格が与えられると同時に、貸与されていた学費が免除される。

 ▽比のプライドを持って

 昨年介護福祉士試験に現役合格したロニー・ブアンさん(28)は、卒業式で比伝統の正装バロン・タガログを着、比国家を背負って出席した。非漢字圏出身者が、一から日本語学習を始め、勤労学生生活3年で国家試験に合格するという快挙の秘訣を聞くと「意志の力だったと思う」とブアンさん。「自分のキャリアにとっての介護福祉士資格の重要性を考えて、自分の可能性を最大限引き出した」。

 「バロン・タガログは、フィリピンの豊かな歴史と多様な文化の象徴。フィリピン人としてのアイデンティティーを表現させてくれる。海外比人就労者(OFW)としてのプライドを持って卒業するため国旗を用意した」と喜びを振り返るブアンさん。ブアンさんのように沖縄の介護事業所で活躍するプログラム生について、屋良理事は「他の国から外国人材の受け入れている事業所でも、ホスピタリティーと愛嬌、敬老精神のあるフィリピン人介護労働者が一番評判がいい」と手応えを語る。

 同プログラムでは、渡航した最初の月の生活費5万円の給付、家賃1人1万円の住居(相部屋)の用意、自転車で行ける範囲での学校・職場・住居 の手配、自己負担だが年1回程度は一時帰国できるようにするなど、プログラム生の生活環境にも配慮する。それが功を奏し、プログラム生による親族・友人への紹介やSNSでの拡散が進んだ。その結果、円安で日本就労の経済的魅力が低下する中、今年は定員の4倍弱の応募者が集まった。沖縄発のユニークな取り組みが、着実に軌道に乗り始めている。(竹下友章)

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