戒厳令博物館の着工大幅遅れ UPが土地引き渡し手続き進めず
人権被害者委「UPがディリマン校内の戒厳令博物館建設予定地引き渡しに必要な手続きを長期にわたり実行していない」
政府機関の人権侵害被害者記念委員会(HRVVMC)のチャック・クリサント委員長は3日、故マルコス大統領が発令した戒厳令下での人権侵害犠牲者らを追悼する「自由記念博物館」建設に関し、フィリピン大(UP)と結んだ建設用地提供覚書に記された内容の実行が大幅に遅れているとして、下院の介入を求めた。3日付英字紙スター電子版が報じた。
下院歳入委員会に出席した同委員長によると、2018年にUPとの間で、ディリマン校内の1・4ヘクタールの土地を建設用地として引き渡すことを盛り込んだ覚書を締結。当該の土地に建っている施設を移転するための資金もUP側が支出することで合意していたが、UP側は23年になっても必要書類を提出していない。HRVVMCは23年6月に文書で催促したものの、いまだ実現していないという。
HRVVMCのクリサント委員長は「UPはまず土地引き渡しを実現させるための行政文書に署名する必要がある。法律上の引き渡しが正式に履行されてから大学事務所やそこで働く職員らの移転手続きに向けた資金投入も可能となる」と述べて、大学当局に早期の手続き実行を求めた。
また、公聴会に参加したアーリン・ブロサス下院議員=女性政党ガブリエラ=は、「(戒厳令博物館)開館は戒厳令布告50周年に当たる2022年に予定されていた。それがいまだ実現していないことは、事業を妨害する行為に等しい」としてUPの対応を批判した。
さらに、ブロサス議員は「もうすぐ(戒厳令が布告された)9月21日がやってくる。戒厳令下の人権侵害被害者たちはもう年を取っており、少なくとも自分たちの目でこの博物館の完成を見届け、過去に起きたことを忘れないよう自分の子どもや孫、将来の世代に伝え続けることができることを期待している」と述べ、一刻も早い博物館の完成が必要との考えを示した。
UPは、現大統領の父親である故マルコス大統領が戒厳令を布告する直前に大学構内や大統領府近くの路上などで多くの学生や教員たちが抗議活動を行ったことで知られ、戒厳令布告後には学生運動のリーダーらが多数逮捕されて拷問や殺害、強制的失踪などの被害を受けたとされている。このような経緯からUP構内に戒厳令博物館を建設する計画が浮上、2018年にはコンセプション学長=当時=が9月21日を独裁政権に抵抗した比大関係者らを追悼する「フィリピン大学記憶の日」に定めた。
HRVVMCはノイノイ・アキノ政権下の2013年2月に発効した共和国法10368号(人権侵害被害者補償認知法)に基づいて設立された政府機関。(澤田公伸)