「現政権でも殺害続く」 弁護士・遺族が東京で講演
ドゥテルテ政権期の麻薬戦争の犠牲者遺族と支援弁護士が東京で特別講演。「超法規的殺害はマルコス政権になっても続いている」と訴えた
ドゥテルテ前政権期の麻薬撲滅政策(麻薬戦争)で発生した超法規的殺害問題に取り組む全国人民弁護士連合(NUPL)のマリア・クリスティーナ・コンティ弁護士と、超法規的殺害の被害者遺族で前大統領を国際刑事裁判所(ICC)に告発した遺族の一人・アミージェーン・リーさんが8月30日、東京で特別講演を行った。同講演会はアジア太平洋法律家連盟(COLAP)と国際人権監視NGO「ストップ・ザ・アタック・キャンペーン」が共催した。
コンティ弁護士は、警察の作戦中に殺された人が約7000人に上るほか、国際刑事裁判所は全体で1万2000~3万人が殺害されたと推計していることを報告。また、殺害の方法として、警察の作戦によるものだけでなく、「『自警団』やバイク2人乗りの何者かによって殺され、犯人が見つからない例も膨大にある」と指摘した。その一方で、超法規的殺害について比国内で訴訟が提起されたのは「わずか52件だけ」と説明した。
同弁護士はまた、フィリピンで超法規的殺害が発生するまでの過程を、①「赤タグ付け」や「テロリストタグ付け」、または「ドラッグリスト」による「他者化・非人間化」を通じ、特定の人々を「われわれ」から切り離す②切り離された対象へハラスメントや脅迫を行う③最終的に超法規的殺害を行う――という3ステップからなっていると分析。
さらに、「比には麻薬戦争と対テロ戦争という二つの戦域がある」とし、活動家やジャーナリストを「共産主義者=テロリスト」とレッテル貼りをし、脅迫したり超法規的に殺害するケースが「マルコス政権でも続いている」と指摘。「現政権でも対テロ作戦などの名目のもと、既に105人が超法規的に殺害され、755人が政治的理由で投獄されている」と報告した。
麻薬戦争を人道上の罪として捜査しているICCの捜査状況については、「実際に殺害した人物だけでなく、その命令を下した人物の責任を追及するため、現在『最も責任が思い人物』を特定している最中だ」とした。
▽突然命を奪われた夫
夫を麻薬戦争で失い、現在、遺族支援団体「命と権利のために立ち上がれ」(ライザップ)に所属するアミ―ジェーン・リーさんも登壇し、自身の経験を共有した。
「2016年に麻薬戦争が始まると、身の回りで知り合いも含め多くの人が殺された。しかしまさか自分の夫が殺されるとは夢にも思わなかった。2017年に夫はバイクに乗った覆面の男に銃撃された。夫が射殺されたことは誰も教えてくれず、翌日、遺体が葬儀場に運ばれた後に連絡を受けた。その日は眼の前が真っ暗になり、子どもたちをどう育て、どう生計を立てれば良いのか途方に暮れた」と、被害者遺族が突然見舞われる苦境を克明に語った。
その後、近所にいた麻薬戦争の犠牲者の母親からライザップの存在を知り、「私は一人ではないということを知った」。それが、絶望の淵から立ち上がるきっかけとなったというリーさん。「多くの人の助けでICCに告発することができた。被害者遺族が真実と正義を勝ち取るため、私たちの声を世界に届け続けたい」と決意を語った。(竹下友章)