「6000万ペソの被害」 アユギン礁補給妨害で
比国軍「先月の中国海警によるセカンドトーマス礁補給妨害の被害額は6000万ペソ」
ブラウナー国軍参謀総長は4日、国軍司令本部(首都圏ケソン市)で開いた会見で、先月17日に南シナ海アユギン礁(英名セカンドトーマス礁)付近で発生した中国海警局による比軍への補給妨害事件で、比側が被った被害総額が約6000万ペソ(1億6500万円相当)に上ったとの見積もりを発表した。
事件では、同礁で比が詰め所とする座礁艦への補給に向かう比海軍高速ゴムボートを、中国海警局の小型艇やコムボートが取り囲んで衝突を繰り返したほか、斧状の刃物を複数人がかりで振り下ろし比のボートをパンクさせるなど、これまでより「力の行使」がエスカレート。このもみ合いの中、素手で対応した比職員一人が右手の親指を欠損する重症を負った。比海軍ボートは乗り込んだ中国職員に臨検を受け、一時拿捕(だほ)、えい航されるなど完全に海警局に制圧されていた。
またその中で、分解して保管していた比軍のライフルの入った容器が海警局職員から接収されている。
同参謀総長は「この6000万ペソは中国が補償すべきだ」と強調。さらに、「負傷したジェフリー・ファクンドー等水兵の親指が再び機能するための再建手術にかかる費用を請求することも検討している」と明らかにした。
また、「既に補償を請求することを求める書簡を国防相、外務省に送った」と報告。海警局から接収された銃器に関しては「7丁のライフル銃を奪われている。書簡にはこれの返還を求める内容も含まれている」とした。
同参謀総長は「海警局の行為は違法であり、責任は彼らにある」と強調。「われわれの要望に中国側が同意することを希望している」と述べた。
一方、中国国防省の呉謙報道官は先月27日の月例会見で、「仁愛礁(アユギン礁の中国名)を含む南沙諸島は中国固有の領土だ」との認識を改めて表明。その上で、「比は信頼を裏切り、建築資材、武器、弾薬を座礁艦に送り込もうとしていた。特に6月17日に比は危険な方法で中国船艇に体当たりし、中国職員に投石した」と述べ、「これは重大な国際法違反だ」と非難した。
▽「モンスター」再来
南シナ海の船舶動向を分析するスタンフォード大のロイ・パウエル研究員(退役米空軍大佐)は4日、「モンスター」として知られる海警局保有の世界最大級巡視船「海警5901」(165メートル)が南シナ海で比の補給任務の際の要所となっているエスコダ礁(サビナ礁)に展開していることを報告した。
同礁には、比沿岸警備隊(PCG)最大の97メートル級巡視船「BRPテレサマグバヌア」(日本供与)が4月から展開しているが、「モンスター」が同船のわずか600メートルまで接近。監視と威嚇を強めていることを明らかにした。
一方で、アユギン礁では海警局と民兵船が2列編成で同礁の入り口付近をふさぐ厳戒態勢を取っているとした。
これまで比海軍とPCGは月1回のペースでアユギン礁の座礁艦「BRPシエラマドレ」に配備されている職員への補給任務を行ってきた。ところが補給に関するいわゆる「紳士協定」の存在を巡り両政府の対立が激化したことを受け、5月の上空から試みられた補給では投下した物資の一部を海警局が強奪し、6月の補給は完全に阻止された。
同礁実効支配の「砦」となっている座礁艦への中国による「兵糧攻め」が本格的に始まり、いよいよ状況が切迫してきている。(竹下友章、ロビーナ・アシド)