「日刊まにら新聞」ウェブ

1992年にマニラで創刊した「日刊まにら新聞」のウェブサイトです。フィリピン発のニュースを毎日配信しています。

マニラ
33度-24度
両替レート
1万円=P3,800
$100=P5870

12月10日のまにら新聞から

パナタグ礁で放水砲発射 中国船「音響兵器」使用も

[ 1028字|2023.12.10|社会 (society) ]

比EEZにあるスカボロー礁付近で中国海警局の大型巡視船が、比の取締船に放水砲を発射。「音響兵器」も使用か

比公船に放水砲を発射する中国海警局の大型巡視船(右)=9日、沿岸警備隊が公開

 比の排他的経済水域内(EEZ)にあるパナタグ礁(英名スカボロー礁)付近で9日午前、中国海警局船が、比漁船への補給任務に当たっていた比漁業水産資源局(BFAR)の船舶に放水砲を発射した。また、中国民兵船が比船に対し「音響兵器」とみられる装置を使用した。現政権発足以降、南シナ海南沙諸島アユギン礁(英名セカンドトーマス礁)への補給任務に当たる比船への中国による放水砲発射事件は2件発生していたが、パナタグ礁での比公船に対する放水砲発射事件は初めて。2012年に実効支配を奪われたパナタグ礁を含め、中国の海洋進出に対する「押し返し」を試みる現政権に対し、中国がまた一歩実力行使を強めた格好だ。

 比沿岸警備隊(PCG)などによると、同日、パナタグ礁付近で操業する比漁船約30隻への必要物資供給任務に当たっていたBFARの30メートル級漁業取締船3隻がパナタグ礁から1.4~1.9カイリに接近した際、海警局の110メートル級大型巡視船2隻が放水砲を8回にわたって発射。比船に対し、海警局船が挟み打つ形で放水砲を発射する場面もあった。これにより、レーダーが大きく陥没するなど比漁業取締船の通信・航海機器は大きな損傷を受けた。

 それに続き、中国民兵船が比取締船に対し危険操船を実行。取締船の側面と接触し、比船はフェンスが変形するなど損傷を負った。さらに民兵船は音響兵器としても使用される長距離音響装置とみられる装置を使用し、比乗組員は一時何もできなくなるほどの深刻な不快感に見舞われたという。

 また中国側は複合ゴムボートを投入し、食料・燃料の補給を待つ比漁船を追い払おうとした。

 さらに同日の午前中には海警局が小型艇を出し、環礁であるパナタグ礁の東南の入り口部分にブイの障害物を設置したと比漁船は報告している。

 比政府は「中国の不法な海上法執行活動は、比の主権と管轄権を侵害しているだけなく、国連海洋法条約や2016年の南シナ海仲裁裁判所判断を含む国際法に違反している」と非難。直ちに「攻撃的な行為」をやめ、同礁から船舶を引き上げるよう要求した。

 パナタグ礁は、2016年の南シナ海仲裁裁判所判断で12カイリの領海のみ有する「高潮高地」と判断されているが、領有権については同裁判所の管轄圏外であるため判断されていない。ただし、同裁判では比中越3国の漁民に対し同礁での伝統的漁業権を認め、中国による比漁民締め出しを違法と判断している。(竹下友章)

社会 (society)