座礁艦撤去約束存在か 元外交官「機密覚書で言及」
元外交官がアユギン礁座礁艦の撤去に関する約束が政府の機密文書に記されていると指摘
アロヨ政権下で大統領報道官や駐ギリシャ、駐キプロス大使を務めたジャーナリストのリゴバルト・ティグラオ氏は14日の英字紙マニラタイムズで、南シナ海南沙諸島アユギン礁で比海軍の詰め所として利用されている座礁艦(BRPシエラマドレ)に関して、撤去するという比政府の約束が「存在する」と主張した。根拠として同氏は「約束」に言及している複数の「機密文書」を挙げた。
「約束」の存在は5日に中国の海警局が比による座礁艦への補給任務を妨害した事件を受け、中国外務省が主張。それに対し、比国家安全保障会議(NSC)のマラヤ事務局長補佐は「過去の政権も含め法的拘束力のあるいかなる形式の合意や議事録も存在しない」と主張。マルコス大統領も「そのようないかなる合意も認識していない」と宣言していた。約束が事実だと確認されれば比外交の信用が失墜しかねず、大きな痛手となる。
ティグラオ氏は座礁船撤去の合意について「口頭の約束だったが、複数の政府文書で言及されている」と指摘。例として2013年4月23日付の「機密文書」に分類されているデルロサリオ外務相=当時=からノイノイ・アキノ大統領=同=へ送られた覚書を挙げた。
覚書によると、同年4月11~17日に中国の高級官僚と比官僚との間で開かれた複数回の会合で、中国側は「比海軍艦BRPシエラマドレの座礁は事故であり、比政府は直ちに撤去すると約束した」と発言。「(座礁した1999年から2013年まで)14年経っており、十分な時間があったにもかかわらず実施されていない」とし、繰り返し即刻撤去を要請したという。これに対しデルロサリオ元外相は「約束が真実かどうかには触れず、中国の要求を黙殺し比の立場を訴える」ことを提言。「比は同礁に対し、国際法に基づいた、長く、継続的で、不断の実効支配をしている。従って、比は支配する海洋地勢について、各国が自身の海洋地勢で行っていることは全て実行できる」とのメッセージを出すよう進言したという。
さらに、1年後の2014年3月にエルリンダ・バシリオ元駐中国比大使からデルロサリオ元外相に宛てた中国高官と比大使館職員との会合内容を報告する覚書を示した。その中では、中国側から「1999年に比が不法に軍艦をアユギン礁に乗り上げさせた際、中国はただちに撤去するよう繰り返し要求し、比は同艦のえい航を約束した。にもかかわらず、比は約束を果たしていないばかりか、建設活動まで始めた」と非難され、即時撤去を再度要請されたことが報告されたという。
ティグラオ氏は「これらの文書では、約束の存在が否定されていないばかりか、しらを切る際に多用される『認識していない』との言葉さえない」と指摘。「約束がうそなら、比政府は否定すればいいだけなのに、そのような文言は見当たらない。(今月)NSCのマラヤ事務局長補佐が否定するまで、比政府が公に否定することはなかった。これは約束が存在することの裏付けだ」との見解を示した。
また類例として、アユギン礁への座礁と同時に、ルソン島西沖のスカボロー礁にも揚陸艦BRPベンゲットを乗り上げさせたことを紹介。BRPベンゲットについては「当時の朱鎔基首相(国務院総理)が比を訪問した直後に撤去された」とした。
また、米シンクタンク「戦略国際問題研究所」のグレゴリー・ポリング上級研究員が昨年出版した著書「オン・デンジャラス・グラウンド」の中にも、「(当時の)エストラダ大統領は意図的に軍艦を座礁させたが、中国側には事故のふりをして撤去すると約束した」ことが記されていることを紹介した。
ティグラオ氏によると、比政府は当初「BRPシエラマドレは事故で座礁し、技術的な問題でえい航・撤去できていない」と主張していたが、ノイノイ政権期にデルロサリオ外相=同=によって前哨基地としての役割が与えられたという。
エストラダ元大統領の息子のジンゴイ、エヘルシト両上院議員は13~14日にそれぞれ約束の存在を否定している。(竹下友章)