原発建設に向け協議 米企業と大統領が会合
訪米中のマルコス大統領が米原子炉メーカーと会談。比での原子力発電所建設を推進へ
訪米中のマルコス大統領と会合を持った米小型原子炉メーカー大手、ニュースケール・パワー社=本社・オレゴン州=は1日、比国内における原子力発電所の建設(最大事業費75億ドル)に向けた事業計画を明らかにした。
マルコス大統領は米ワシントンDCで1日、ホワイトハウスでバイデン米大統領との首脳会談に臨むより前に同社幹部らと会合を持ち、導入の検討を行っている小型モジュール炉(SMR)を使った原子力発電所建設計画の規模や立地など具体的な内容について話し合った。大統領と同社幹部が面会するのは2022年9月の第77回国連総会に出席するため大統領が訪米して以来2度目。
この会合にはロムアルデス下院議長やパスクアル貿易産業相、ロティリア・エネルギー相のほか、同社と提携関係を結ぶプライム・インフラストラクチャ・キャピタル社を率いる比著名実業家のエンリケ・ラソン氏も同席した。
同計画によると、2031年までに総発電量430メガワットに上る、複数の小型モジュール炉を使った原子力発電設備を建設するもので、その事業規模は65億~75億ドルに上るという。
マルコス大統領は「比では電力供給が根本的に足りていない」とし、原子力発電が電力供給不足の解決に一役買うとして同計画を歓迎した。一方、同社副社長を務めるクレイトン・スコット氏は「我々の技術が期待に応える」と自信を覗かせた。
スコット氏によると、同社のSMR技術は米国政府支援の下、原子力技術者らによって開発され、米国原子力規制委員会から初めて設計認可を受けた唯一の技術という。ニュースケール・パワーには日揮ホールディングスやIHIと言った日本企業も出資しており、この2社が建設事業に参画することも見込まれている。
同社の技術は、安全面やコスト面からの定評があるとされ、米国内のほか、ルーマニアやインドネシア、ポーランドでもSMRプロジェクトの導入に向けた事業可能性調査などが実施されている。
▽環境団体の反発
一方、国際環境NGOグリーンピースは2日までに、ニュースケール・パワー社の比進出がもたらすリスクは経済だけにとどまらないと警鐘を鳴らした。
同団体の広報担当であるケビン・ユー氏は、原子炉メーカーらがより安全で安価な再生可能エネルギーの選択肢が広がる中、「自分たちの事業推進を優先するために、比を未曾有の危険な技術の実験台にしようとしている」と指摘。
ユー氏は脱原発化が進むドイツなど欧州の例を挙げ、「SMRはまだ安全性が立証されていない。核廃棄物を安全に保管する方法は今のところ存在しない」と訴えた。また、今回の比米首脳会談で挙がった再生可能エネルギー推進の話題について「それこそ現政権の焦点とすべきだ」と強調した。
マルコス大統領の父親のマルコス・シニア政権は、比で初めての原子力発電所として米ウェスティングハウス・エレクトリック社にバタアン原子力発電所建設を発注し、1984年にほぼ完成。しかし、86年2月の政変でマルコス一家が国外追放された後、コリー・アキノ政権はチェルノブイリ原発事故やバタアン半島の活断層に近い立地などを懸念して原発計画を86年に凍結した。(沼田康平、澤田公伸)