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1月31日のまにら新聞から

「彼にバレたら殺される」 KTVに通った渡辺容疑者の横顔

[ 2416字|2023.1.31|社会 (society) ]

「ルフィ」とみられる容疑者は少なくとも5店のKTVに足を運んでいた

KTVが立ち並ぶマカティ市の通り=29日、竹下友章撮影

 日本での連続強盗・窃盗事件の指示役「ルフィー」とされる渡辺優樹容疑者とみられる男性が2018~2019年にかけ、首都圏マカティ市で少なくとも5店舗のカラオケバー(KTV)に通っていたことがまにら新聞の取材で分かった。常連客として通っていたKTVでは、スタッフの誕生日に5000ペソのチップを渡すなど「グッドガイ」として知られていた。また、KTVでは偽名の一つであるシマダ・ケンジを名乗っていた。

 渡辺容疑者は21年5月に比で拘束。フィリピンを本拠地とする特殊詐欺のリーダー格の一人だったともみられている。首都圏マカティ市を拠点とする特殊詐欺組織は遅くとも2017年には活動を開始し、2019年に捜査で偽電話の「かけ子」ら36人が一斉逮捕された。マカティ市中西部のKTVが集中するエリアで渡辺容疑者の目撃証言は、組織の活動時期とほぼ符合する。

 ▽「グッドガイ」

 同市アルナイス通りにネオンを輝かせるKTV「A」。そのスタッフとして2018年から働くベニーさん(57)と2017年から警備員として働くベンさん(29)に容疑者の写真を見せると、「100%間違いなく彼を知っている」と目を輝かせた。2人によると、渡辺容疑者の身長は5・7~5・8フィート(173・7~176・8センチ)くらいでがっしりした体型。「『ビッグボス』という感じだった」という。同店に渡辺容疑者は2018年頃からコロナ前まで月2回程度の頻度で来店。振る舞いは「グッドガイ」。いつもスタッフを楽しませようとしていたという。来店の際は「今日スタッフは何人いる」と呼びかけ、一人当たり1000ペソづつ配った。機嫌がいい時は3000ペソになった。ベニーさんは「私には養わなくてはいけない家族がいるから、チップはとても助かった」と振り返る。

 ベンさんが誕生日のときには、1000ペソ札を5枚数えながら取り出し、「ハッピーバースデー」と言い、投げキッスをする仕草でおどけながらチップを渡したという。

 スタッフが容疑者から預かった車の鍵を失くしてしまった時でも、「OK、OK、次から気をつけて」といって全く怒りを見せなかった。「他のゲストの鍵をなくした時はこうはならない。怒り、ののしり、弁償を求めるのが普通だが、彼は違った」とベニーさん。「外で何をしていたかは全く知らなかったが、彼はゲストとしていい男だった」と語った。

 また同じ通りのKTV「B」でスタッフとして働くコニーさんは、「コロナ前1回だけお店に案内した。体格が大きくて、友だちと一緒に来店した。態度・振る舞いの印象は良かった」と証言。Bに隣接するKTV「C」で16年働いているスタッフのポンさん(54)によると、渡辺容疑者は2~3人くらい連れて同店に月1回ほどの頻度で来店。お気に入りのホステスはおらず「いつも指を指してホステスを指名していた」。たまに泥酔して来店し大声を出すこともあったが、「決して暴力は振るわなかった」。

 

 ▽バレたら殺される

 客としては概ね好印象の渡辺容疑者だが、「毎日うちの店に来店していた」と証言する、あるKTVのスタッフ女性(40代後半)は同容疑者について尋ねると強い警戒心をあらわにした。

 29日午後5時ごろ、開店準備中に食事を取っている時に店に入り渡辺容疑者の写真を見せると、スタッフ全員が興味津々な様子で覗き込む。そんななか、写真を見るなり「キララ・アコ(知っている)」とつぶやき、眉をひそめたのがその女性だ。

 その女性によると、渡辺容疑者とみられる男性が来店していたのは、パンデミック前、2019年ほど。名を「ケンジ・シマダ」と名乗っていた。「ケンジ・シマダ」は、記者が提示した逮捕時のマグショットには書いていない渡辺容疑者の別名と一致する。信憑(しんぴょう)性の高い証言といえる。

 客としての渡辺容疑者の振る舞いは「ふつう」。Tシャツにハーフパンツなどラフな格好で来店し、いつも同じお気に入りのホステス(当時21~22歳)を指名していた。スタッフにもふんだんにチップをばらまいた。そのホステスは既に辞めて田舎に帰っているという。

 その女性は英語、日本語、フィリピン語を交えながら「アラウアラウ(毎日)来た、ビコーズ(だって)お金持ち。友だちと一緒に」と証言。その上で「なんで探しているの、あなた警察か。彼はもうジェイル(拘置所)でしょ」と聞く。収容施設から指示を出していた容疑があると伝えると「メイビー(多分)フィリピン人コネクションいる。彼はたくさんコンタクト、アウトサイド、どうする? 怖いなー」と不安を表した。「人定情報は隠します」と約束すると、「イエス、バレたらヒーウィルキルミー(彼は私を殺す)。冗談じゃない」といって奥に下がってしまった。その語り口からは、渡辺容疑者の「裏の顔」に感づいていたことが伺われた。

 ▽痕跡残さず

 また、2019年ごろに月1回~2カ月に1回程度の頻度で渡辺容疑者とみられる男性が来店していたという別のKTVの日本人マネジャーは、「ああ、この人はみたことありますよ」と振り返る。この時期は「やたら若くて羽振りいい人」がいっぱい来店していた。そういう人たちは「面白いことにクレジットカードを使わず、全部現金払い。不思議なお客さんだなとは思っていた」。この種の客は大体IT関係と名乗っていたという。

 客としての振る舞いについては、「雰囲気は普通。お金払いはいいし、女の子たちの受けもいい。お店で問題を起こすようなことは全くなかった。その点駐在員の方と変わらない。きれいな飲み方をされます」。ただし、ホステスたちに連絡先を教えることはめったになかったという。同マネージャーは「今思えば、やっぱり上手ですね。痕跡を残さない」と、詐欺集団流の「遊び方」を振り返った。(竹下友章)

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