「来年も世界チャンピオンに」 来た段階で覚悟を決めていた 月井隼南さんインタビュー
MJS生徒・児童との交流後の月井隼南さんに比空手界の現状や今後の展望などを聞いた
マニラ日本人学校(MJS)に空手の世界王者・フィリピン代表である月井隼南さんを招いての4日の児童・生徒向け空手教室。交流後の月井さんに比空手界の現状や今後の展望などを聞いた。(聞き手は岡田薫)
―2回目の空手教室を終えた心境は。
2017年の時はスポンサーもいないし、肩書きも何もない状態で、1人で来てバタバタでした。子どもたちに私が誰って説明するのに「空手をやっている者です」と言っても、あまりパッとしないでしょう。それが今では「世界チャンピオン」の肩書きや金メダルがあるので、みんな喜んでくれるのかなって。私にとってはメダルを取る過程がとても大事で、それで成長できた。
その17年から1年間、MJS近くの幼稚園でバイトをしながら大会に出ていて、当時、MJSも放課後の子どもたちの宿題を見るため、時々訪れていました。
―現在の拠点は。
父が30年前に空手の比代表チームの外国人コーチをしていた関係で、その教え子が後にコーチとなっていて、「比も空手をがんばりたい。手伝ってくれないか」と言われ、父からどうって進められたことがきっかけ。17年に単身で比に来たけれど、今は日本に住んでいます。防疫措置でスポーツホールなどが使えなくなり、今年9月に2年半ぶりに使えるようになったためで、この間セルビアに行くようになりました。比からの制約はなく、試合前の合宿には参加してチームメンバーに教えてほしいといわれ、年に3回ぐらい戻ってきています。
―比での空手人気は。
教育の一環として空手をやらせたいと思う家庭は多く、日本の文化が好きな人、ドラゴンボールなどアニメの影響で始めた人も多いですね。テコンドーに次いで人気のスポーツで、(極真といったフルコンタクトを除く)全国大会には大人・シニアで100、200人近く、子どもたちを入れて500人ぐらい集まっていました。遠方の島にいて来られない人などもいるので、実際は結構いるのでは。
―比代表チームとは。
一緒に練習しているチームメイトは15~18人。東南アジア競技大会ではメダルを獲得しているが、地域ではマレーシア、インドネシア、ベトナムに次いで、タイに時々勝って4番目か5番目。だから世界の強豪国と渡り合うのはなかなか難しい。チーム自体にコーチはいても、予算がなく、世界を一緒に歩けるコーチがいない。練習を見守ってくれる役目に留まってます。
ただ、私個人としてはセルビア人のコーチがいて、試合でダメだったところ、相手選手などを映像で分析してくれてます。去年まではオリンピックで優勝した選手のコーチもしていました。
空手はルールが毎年変わるんです。そのルールに追いつくには、たくさん試合を見てアップデートしなくてはいけない。比には、そうしたアイデアをくれる人がなかなかいなくて。日本では道場を持つ父から教わりはするけれど。
―手当や生活は。
世界レベルになって月々の手当が3万ペソほど。他の選手は1万ペソとか。だからみんな大会に出ることが資金的にも難しい。前回米国でのワールドゲームズの賞金も大統領が変わったことでいまだにまだ。大統領府からの連絡を待っています。私は味の素フィリピン(スポンサー)の支援もあり、セルビアに行くこともできている。
でも、海外での宿泊先はエアビーアンドビーで探し、外食しないで、もっぱら自炊。スーパーで買った食材で作ったりしているので、そんなことを考えると他国の選手よりも空手に集中する時間は少ないかな。また相談できるコーチが国内にいればもっと良いですね。提案したい事はいろいろとあるけれど、自らそれを学んできたからこそ育った部分もあるので、そこはポジティブに捉えています。比に来た段階で覚悟を決めてやっているので。
―比の人はどうか。
親切な人が多く、警備員やタクシー運転手さんからもワールドゲームズ後に「空手の人でしょ」とか。自宅でのPCR検査時、朝7時ごろに寝起きでドアを開けたら、「ハーフの空手の人だ。写真お願い」と。シーゲームズ(東南アジア競技大会)の後にもけっこう声を掛けられたけれど、ワールドゲームズ後は特にすごかった。
―今後の展望は。
パリ五輪では競技種目から空手が外れてしまったけれど、今一番の目標は来年のアジア競技大会。そこでは日本も出るし、強国イランや台湾も。それに、何より日本のメディアも入ってくるので、スポンサーさんに少しでも恩返しできる大きな舞台です。残念なことに、世界選手権で勝ってもあまり放映されないんです。
今回比には短期の予定で、それからアジア選手権のためウズベキスタンに入ります。比からは選手3人を含め7人ぐらいで。プレミアやワールドゲームズに出るにはランキングが必要だけれど、アジア選手権では各国1人ずつカテゴリー別で出場できるので、今回はチームが一緒です。大会期間は12月16~20日まで。その後は来年1月末から世界ランキングを決めるプレミアリーグのツアーが始まる。
来年ももちろん世界チャンピオンを目指していきますが、同時にチームの成長も。若い選手がもっとたくさん活躍できるよう、次の世代へもつないでいきたいですね。