相続税、歴史問題に口開く 就任後初のロングインタビュー
大統領が就任後初のロングインタビューに応じ、相続税や歴史修正問題について語る
民放ALLTVで13日、ボンボン・マルコス大統領就任後初となる対談形式独占ロングインタビューが放送された。聞き手を務めた歌手・女優でテレビ司会者のトニー・ゴンザガさん(38)は、選挙運動の支援、就任宣誓式での国歌斉唱を行うなど大統領と公私共に近い人物。同氏は関係の近さを逆に利用し、2030億ペソの相続税問題、父を裏切ったエンリレ氏を大統領顧問に任命した理由、歴史の教科書を書き換えようとしているのかなど、切り込んだ質問をぶつけた。大統領は時折、目に涙を浮かべながら、自身の考えを吐露した。
▽財産すでに放棄
2030億ペソに上るとされるマルコス家の相続税問題については「この問題が提起されたとき、われわれはハワイのヒッカム空軍基地内に拘禁されており抗弁の機会は与えられなかった」と説明。「今マルコス家は比に住んでいる。裁判を開き、1987~89年にできなかった主張をさせてほしい」と訴えた。
主張したい内容については「現在、われわれが相続したと言われている財産の調査をしているが、そのほとんどをマルコス家は所有していない。実際、権利放棄書に何度も署名してきた。(父の)財産がほしいなら、持っていってほしい」と述べた。
故マルコス元大統領を裏切り1986年のエドサ革命(2月政変)を成就させたエンリレ元国防相を、なぜ主席大統領法律顧問に登用したのかという質問には「簡単なこと。比で最も優れた法律家だからだ」と回答。
エンリレ氏とは「過去の話をいつもする」関係という。当時国防相だったエンリレ氏が政府に反旗を翻し立てこもった国軍本部から掛けてきた電話を大統領府で受けたのは自身だったことを明かし、「受話器を持ちながらエンリレ氏と父との会話を聞く限り、彼の行動は父への攻撃とは思えなかった」と振り返った。その上で「彼は国家を守るためにそれ(政変)が必要と考えたのだろう」と一家を亡命に追い込んだ同氏の行動に理解を示した。
また、エンリレ氏には「『なぜ政変後に自身が大統領を目指さなかったのか』と本人にもよく言っている」とし、同氏への高い評価を口にした。
▽父は独裁者ではない
メディアで「独裁者の息子」と形容されていることについてはマルコス大統領は「彼らは間違っているので気にしない」。父の政権時には「住民団体や農業団体が大統領府に陳情に訪れ、父が対応していたのを何度も見てきた」と振り返り「どんな政治体制であれ、こうした人物を独裁者と呼びはしない。父が相談に応じた団体の数はその後のどの政権より多い」とした。
学校では戒厳令について「故マルコス元大統領が権力の座に留まるための手段だった」と教えられていることについては、「当時の比は新人民軍(NPA)とモロ民族解放戦線(MNLF)との戦いという二つの内戦を抱えており、国家防衛のために必要な措置だった」との認識を提示。「共産主義の手は首都圏や地方主要都市の近くまで伸びていた。母はMNLFの分離独立を支援するリビアと交渉するため同国を訪問した」と述べた。
こうしたマルコス家側の歴史が一般メディア上では正当とされない理由について「歴史は勝者が書くからだ」とマルコス氏は指摘。 歴史教科書の修正について「事実に反しているものは修正すべきだ」との考えを示し「解釈でなく、事実について検討すべきだ。映像、写真、その他の記録は残っている。こちら側の認識の正しさは証明できる」と発言。言及を避けてきた歴史問題に対し、大統領就任後初めて自身の考えを吐露した。
幼少期から20年暮らしたマラカニアン宮殿に36年ぶりに自身が大統領となることで「帰宅」を果たした気持ちについてマルコス氏は「子どもの頃から父の執務する姿を見て『ああ、これが大統領なのだ』と思ってきた。今は自分がそうしている。とても言葉では言い表せない」と述べた。
当選が確定した5月9日、英雄墓地に埋葬された父の墓を訪問したとき「あなたがここ(大統領の座)にいるべきだ。あなたの業績が私をこの座に導いた」と伝えたことを明かし、涙ぐんだ。(竹下友章)