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8月16日のまにら新聞から

「今こそ平和の誓い新たに」 カリラヤで3年ぶり開催 日本人戦没者慰霊祭

[ 1829字|2022.8.16|社会 (society) ]

カリラヤ日本人戦没者慰霊園で3年ぶりに戦没者慰霊祭が開かれ、約200人が参列

慰霊碑に献花し、祈りを捧げる越川大使夫妻=15日午前9時40分頃、竹下友章撮影

 ラグナ州カビンティ町のカリラヤ日本人戦没者慰霊園で15日午前、戦没者慰霊祭が開かれた。2020~21年はコロナ禍でオンライン形式だったため、同霊園の「比人戦没者乃碑」の前での慰霊祭は3年ぶり。会場には邦人団体関係者や遺族ら約200人が参席、慰霊碑に献花を行い、先の太平洋戦争における比の戦没者の冥福を祈った。式典には越川和彦駐比日本国大使、マニラ日本人会の高野誠司会長、フィリピン日本人商工会議所の嶋田慎一郎会頭、藤井伸夫副会頭、マニラ会の大槻栄一会長、日比ビジネスクラブの屋良朝彦会長、マニラ日本人学校の梶山康正校長らが参列した。

 マニラ日本人会の高野会長は追悼の辞で「先の大戦で50万を超える日本人将兵、2万人の民間人が今われわれが見るのと同じ海、空、花を見ながら無念の死を遂げた」と邦人の犠牲に思いを致す一方、「この戦禍で110万人以上の比人が犠牲になったことも忘れてはならない」とし「全ての戦没者の御霊(みたま)」に哀悼を捧げた。その上で「世界では戦禍に苦しむ人がおり、新たな火種も身近に迫っている」と述べ、ウクライナ戦争、中台緊張激化などで世界が混迷に向かう中、平和への誓いを新たにした。

 式典にはボンボン・マルコス大統領がメッセージを寄せ、岡島洋之公使兼総領事が代読した。大統領は「誤った国益の追求が国家主権の侵害という結果に結びついたという過去からの教訓は、現在も生きている」と過去の惨禍から学ぶ意義に言及。その上で「今年は大戦終結から77周年でもあると同時に比日友好66周年の年。比日は今やこの地域で最も親しい友好関係の一つだ」と強調した。その上で「比日両国が自由、人権、持続化可能な発展という理想を引き続き固く保持することを期待する」とした。

 ▽対日感情改善の歩み

 越川大使は閉会の辞で比日双方の戦没者に追悼の意を表明。その上で「戦後、日本は立派に立ち直り、平和を重んじる国として戦争を二度と繰り返さないとの決然たる誓いを貫き、名誉ある地位を築いた」と述べ「万人が豊かに暮らせる世界の実現に努力を重ねていく」との決意を慰霊碑の前で新たにした。

 また「最近の調査で比人の約80%が日本を信頼できる国と回答した」ことに触れ「戦後を託されたわれわれ日本人として、このような両国関係を築けたと報告できることを誇りに思う」と述べた。

 民間調査会社パルスアジアが先月下旬に実施した世論調査によると、日本を「信頼できる国」と回答した比人は19年9月の前回調査に比べ5%増の78%。米国(89%)、オーストラリア(79%)に次ぐ高さとなっている。

 コロナ下の2020年11月に着任した越川大使にとっては初のカリラヤ慰霊祭。大使はまにら新聞の取材に対し「昨年3月にも訪問していたが、やっと終戦の日にご遺族、各界代表前で開催できたのは格別の思い」と慰霊祭への思い入れを述べた。また「戦後から70年代末まではまだ比人の対日感情が厳しかった」と指摘。「これまで弛みない邦人の努力と比人の許しの心でここまで来られた」とし、先人への感謝とさらなる関係強化への決意を表明した。

 更に、混沌とする世界情勢の中、日本が平和に対し積極的に果たせる役割については「平和にとって重要なのは、(比への)武器・装備品の供与ではない」「ルール・オブ・ジャングル(弱肉強食)でなく、ルール・オブ・ロー(法の支配)に基づき国際秩序を守るというメッセージを共に世界に発信することだ」と指摘。「日本は南シナ海、東シナ海、台湾海峡問題に関し比と長い間協力しており、2016年国際仲裁裁判所判断も支持している。海上保安庁と比沿岸警備隊の連携強化は海上法執行能力を高めるためだ」とした。

 ▽望郷の念いかほどか

 慰霊祭ではマニラ日本人会の歌唱同好会ラ・メールとマニラグリークラブが、両国国歌を斉唱。献花式中には「ふるさと」「椰子(やし)の実」など戦前からも親しまれる唱歌を合唱した。マニラグリークラブの岡本浩志さん(62)は式の後に「コロナ禍でメンバーが減少する中、3年ぶりの合唱。平和への祈りと戦没者への鎮魂の思いを込めて歌った」と振り返った。歌の中には「いずれの日にか国に帰らん」といった歌詞もあり「望郷の念を抱えながら命を散らした先人を思うと、思わず歌いながら声が詰まってしまうところもあった」とし、戦没者に捧げる思いの深さを語った。(竹下友章)

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