「就任6カ月後にも分裂の危機」 次期政権の展望 神戸市外語大・木場准教授
神戸市外語大の木場紗綾准教授がウェブ講演会で大統領選の結果分析と新政権の展望を発表
神戸市外語大の木場紗綾准教授(政治学博士)は28日、「REAL ASIA」「アジア政経社会フォーラム」共催のウェブ講演会で「フィリピン大統領選の結果分析と新政権の展望」をテーマに講演を行った。その中で同准教授は各種定量データを参照しながら、ボンボン・マルコス次期大統領の高支持率要因に関する通説を検討し、次期政権の展望を提示した。
▽SNSの影響は未確定
木場准教授はよく語られる「戒厳令期を知らない若者世代がSNSに感化され独裁者の息子を選んだ」という言説を批判的に検討。
戒厳令を知っている世代である45〜64歳のボンボン支持率が6割を超えているとの世論調査結果を提示するとともに、投票に影響を与える要素は家族(60%)、ニュース(46%)、SNS(43%)だったというアテネオ大などの調査結果を参照。投票行動に影響を与える要素は依然として家族など親しい人との「語り」だと指摘した。
一方で、「候補者の悪い噂」や「人格攻撃」が「特定候補に投票しない」行動に大きく影響を及ぼすという、民間世論調査会社パルスアジアの調査結果を引用。インターネットの利用率が71%にまで拡大する中で、SNSが「エコーチェンバー効果(反響効果)を持ったのは確か」とした。
また、ボンボン氏本人は選挙期間中、対立候補への攻撃を避けており「育ちの良い息子」「家族のことで批判されかわいそう」といったイメージが醸成されていったとした。
▽リベラルの自爆
木場准教授はまた、ボンボン氏の勝因をリベラル勢力の敗因から検討。ロブレド氏の選挙運動には何のサプライズ(意外性)もなく出足が遅かったこと、ボンボン氏に「独裁者の息子」というレッテルを貼ったことが逆に反発を招き「自爆につながった」ことに加え、リベラルの政治活動が「社会運動的」だったと指摘。
比の社会運動は、党派化すると分裂し、貧困対策では差別化できず、地方政党や少数セクターを積み上げる方式は既に有効性を失っており、伝統的なやり方で地方を押さえていく方法では内部で反発されるなど、多数のジレンマを抱えていると説明。「ノイノイ・アキノ元大統領のような象徴的なリーダーがいれば勝てるが、今回はいなかった」とした。
▽サラ野党連合も
同准教授は、ボンボン次期政府の展望について、ドゥテルテの娘であるサラ氏と相乗りすることにより勝利したことから「政権内部の分裂は避けられない」と予想。統一選で敗北した候補は選挙6カ月後に公職に就くことができるようになることから「12月にも閣僚ポストと主要政策を巡る対立が始まる」とした。
さらに、サラ氏が次期大統領の座を狙うなら、2025年の中間選挙にはサラ氏が反政権連合を形成して戦う可能性もあるとした。
次期政府の性格について、相乗り政権であるがゆえに、利益配分を巡り取引主義・縁故主義が復活すると指摘。ノイノイ・アキノ政権が推し進めた法や制度による公平な社会サービスからは遠ざかるとした。そしてそのことが、いったん制度による効率的な公的資源配分を経験した中間層を「大きく揺さぶることになる」と警鐘を鳴らした。
外交について「ドゥテルテ外交は米中に揺さぶりを掛けていた」という認識を「幻想」と両断。「中国は何も揺さぶられておらず、米国は『駄々っ子外交』を見守っていただけ」とした。
ボンボン政権の外交政策は「2016年に戻るだけ」と木場准教授。外交方針の16年以前への回帰は、昨年8月の訪問米軍地位協定の破棄撤回や、今年4月の比日外務・防衛閣僚会合(2プラス2)開催などの形で既に始まっているとした。(竹下友章)