「海のアマゾン」破壊から撤退を 液化天然ガス開発計画で国内外106団体
日本を含む国際金融機関などに対し「ヴェルデ海峡」での液化天然ガス開発計画から撤退するよう要請
フィリピン国内外106の市民団体が12日、日本を含む大手企業や国際金融機関などに対し、「海のアマゾン」とも言われるルソン島中部とミンドロ島の間にひろがる「ヴェルデ海峡」(VIP)における、液化天然ガス(LNG)開発計画から撤退するよう要請する署名入りの声明を発表した。署名したのは、プロテクトVIPキャンペーン・ネットワークやパワー・フォー・ピープル・コーリション(P4P)など比国内の60団体、そして日本や米国、中国、オーストラリア、ドイツ、ミャンマー、ポルトガル、インド、ウガンダなど国外46の環境団体。
ウェブサイト「www.protectvip.org」に掲載された同声明によると、140万ヘクタール以上に及ぶ海洋回廊であるVIPは、世界で認知されている近海魚種の60%が生息し、魚類1736種以上、サンゴ類338種、その他にも生物数千種が生息する世界で最も生物多様性に富んだ地域のひとつ。この「海のアマゾン」をもって比が世界有数の水産物の生産国かつ輸出国となり得ており、同地域の観光業や海洋産業、漁業を通じて数百万人が生計を立ててきたという。
VIPの近接州の一つバタンガス州には「全国にある既存のガス燃料火力発電所6カ所のうち5発電所が集中するばかりか、新規発電所27案件のうち8案件(総発電量29・6GW中11・8GW)、そして計画中の天然ガス貯蔵ターミナル9案件のうち7案件がある」。現在同州では、複数のプロジェクトが進められており、一例としてバタンガス市イリハンとデラパスには、リンシード・フィールド・パワー社とアトランティック・ガルフ・アンド・パシフィック社(AG&P)によるLNGターミナル事業が進められ、国内初のLNG輸入基地が建設される予定。
今年3月12日時点で両社は、事業地区分をアグロフォレストリー地区から工業地区に転換する手続きに着手し、その「違法性に関する懸念が指摘される中、沿岸事業地の整地作業を進めている」という。「丘陵地から切り出された土は、輸入施設の桟橋を建設するため海に、そしてこの地域の水中海洋生物の上に投棄されている」問題に触れた。
さらにVIPは、ガス産業がもたらす「破壊的影響の氷山の一角」にすぎないと位置づけている。その他にも、西ネグロス州サンカルロス市のLNG火力発電所(最大発電量300MW)、レイテ州タバンゴ町のLNG火力発電所(600MW)、南サンボアンガ州サンボアンガ市のLNG火力発電所(300MW)計画を挙げた。さらに「国内の中心的漁港であるナボタス近郊の12基に及ぶ巨大なLNG施設(6492MW)建設計画など、挙げ始めたらきりがない」とも説明した。
▽日本のガス会社や銀行も
国際環境NGO「FoEジャパン」も12日に声明を発表。それによると、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は2018年、温暖化を1・5度未満に抑えるため「30年までに世界全体のガス使用量を10年比で60%削減する必要がある」と報告している。「推進派によって、ガスは炭素集約度が低いため石炭に代わるクリーンな代替案として宣伝されているが、ガスは20年間でCO2の80倍の熱を閉じ込める能力がある別の温室効果ガスであるメタンを大量に排出する」と先の声明を補足した。
FoEジャパンはAG&Pへの出資者が大阪ガスや国際協力銀行(JBIC)、I Squared Capitalなどであることを確認。また「EERIとサンミゲル社の合弁によるガス火力発電所に対する積極的な投資者」にはJPモルガン・チェース・アンド・カンパニーなどに加え、「スタンダードチャータード銀行、みずほ銀行、クレディ・スイス、ドイツ銀行、DBS、地場銀行のチャイナ・バンキングとフィリピン開発銀行(DBP)なども含まれており、懸念される開発計画の証券発行を促進し、VIPの破壊に加担していた」点を指摘している。
FoEジャパンの波多江秀枝氏は「日本の金融機関は、ガス開発事業の環境社会への影響を精査する必要がある。このような事業は、現地のコミュニティーに大きな影響を残す。JBICは、公的資金を投じて破壊的な事業を支援したという実績が広く知られることになっても良いのだろうか」と声明で述べた。「JBICが資金供与する各事業に対し、重要な自然環境の著しい劣化を伴わないという要件を課しているJBIC自身の環境社会ガイドラインにも明らかに違反している」とも付け加えた。(岡田薫)