最優秀賞にペレスさん JFMの「日本語フィエスタ・オンライン」
国際交流基金マニラ日本文化センターは「2022年日本語フィエスタ・オンライン」を開催、日本語スピーチコンテストの本選も行われた
国際交流基金マニラ日本文化センター(JFM)は19日、「2022年日本語フィエスタ・オンライン」を開催、その中で日本語スピーチコンテストの本選も行われた。同コンテストは学生、社会人、7カ月以上の日本滞在経験者であるオープンの3部門に分けられ、本選では各部門3人ずつの計9人がスピーチを披露した。予選ではルソン(30人)、ビサヤ(13人)、ミンダナオ(11人)の計54人が各地でエントリーしていた。
鈴木勉所長は「日本語スピーチコンテストの歴史は長く今年で49年目になる。前回私がフィリピンに赴任していた約15年前にも開催していた」と回想し「長いコロナ禍のトンネルを越え、新しくニューノーマルが始まる」段階にあるとの認識を示した。
各部門で1位が選出されたのとは別に、全体の最優秀賞は社会人のマリリン・ペレスさんで「うつ病薬に学んだこと」。敢闘賞はオープン部門のリッシー・ラポンさんで「マルチリンガルの苦労」。審査員特別賞は社会人のダナ・セスコンさんで「窓の外に何がありますか」だった。
ルソン地方出身で最優秀賞に輝いたペレスさんは「一生懸命勉強すれば将来が保障されるという『嘘』を聞かされて育った」と高校・大学時代までの自らを振り返った。周囲の期待に応えようと奨学金を獲得して有名大学に入った。しかし、精神的ストレスが我慢の限界に至り、泣くしかできない日々を送り、大量の睡眠薬を飲もうとも試みた。そんな時に医者からうつ病薬を処方され、7カ月を動画配信サービス「ネットフリックス」で映画を観るなどして心と身体の回復を待った。
ペレスさんは「人間は基本的に休息が必要だ。ただ、積極的に求めなければ手に入れられない」とし「私たちは資本主義によって呪われている」と語った。「今の社会では勉強や仕事をしなければ何もならないと言われる。この残酷な世界に存在する時点で大きな生きがいがある。仕事量でその人間の価値が変わることはない」との名言も飛び出した。
学生部門で1位となったブラカン国立大に通うマーク・オバオブさんは、ある程度日本語を勉強後に字幕無しでアニメを見た際、何も分からなかった状況を分析してみせた。日本語の「レベルが低いのに自分の能力を過大評価してしまう思い込みを『ダニング=クルーガー効果』と呼ぶ」とし、自分が同効果に陥った原因を「学んだ内容を評価してもらう機会がなかったし、間違っていると言ってくれる人もいなかった」とした。
オバオブさんによると、人は特定の知識が低いほど分かっていないことに気が付かない場合が多い。同効果への対処法として「自分より日本語が詳しい人に聞き、学ぶ姿勢が大切。分からなければ、スマートフォンやコンピューターで今では調べられないことはない。でも、恋人がいないことの解決を求めるのは勘弁してほしい」と笑いを誘った。最後に「私が知っているのは何も知らないということだけ」と哲学者ソクラテスの言葉を引用した。
▽長年の助けが5分間に
ペレスさんは受賞後、「5分間の発表時間の背景には、JFMをはじめ、先生方や多くの人たちの長年の助けがあった」からで、今「(私の中で)感謝の気持ちがあふれている」と喜びを伝えた。
審査員の1人である在フィリピン日本国大使館の佐藤純子広報文化センター所長は「コロナ禍でも日本語学習のモチベーションを維持する難しさを理解している」とした上で「毎回参加者の日本語能力の高さには驚いている」と話した。
日本経済新聞社マニラ支局長の志賀優一氏は「私自身、タガログ語の勉強のみでなく、日本語も学び直さなければと思った」と語り、日本語学習者を鼓舞した。(岡田薫)