英雄3人から鷲へ 千ペソ札の図案変更で波紋
新千ペソ札の図案を英雄3人からフィリピン鷲に変更したことで波紋広がる
フィリピン中央銀行(BSP)は11日、国内で初めてとなるポリマー製の新千ペソ札の流通を来年4月から開始すると発表した。しかし、その図案が従来の千ペソ紙幣に描かれている日本占領期における比の英雄3人の肖像からフィリピン鷲に変更されており、各方面から批判が相次ぐなど波紋が広がっている。
現在の千ペソ札に描かれているのは、太平洋戦争中、比を占領した旧日本軍によっていずれも処刑された、女性慈善活動家のホセファ・リャネス=エスコダ氏、ビセンテ・リム陸軍司令官、ホセ・アバドサントス最高裁長官の3人。新札では代わりに、フィリピン鷲(フィリピンの国鳥、絶滅危惧種)が採用された。
BSPによれば、この鷲はよい視力・自由・力強さを象徴しており、比の豊かな植物と動物のイメージを紙幣の表側に描くシリーズの第1弾だという。
また、中銀によると、新千ペソ札の発行については金融政策委員会と大統領府の承認を得ているという。
ポリマー紙幣は英国やカナダなどで使われているが、公衆衛生、偽造防止、耐久性、費用対効果などの点で優れているとされる。ただし日本の紙幣にも使われているマニラ麻(アバカ)を素材として使わないことで、比国内のアバカ生産農家への影響があるとされる。今回、まずポリマー紙幣として千ペソ札が選ばれたのは、流通量が多く、偽造防止技術が駆使されながら、依然多くの偽造紙幣が見つかっているためという。
▽肖像外しに批判も
しかし、3人の英雄の肖像を千ペソ札から外すことに反対の声が各方面から出ている。国軍のラモン・ザガラ報道官は自らのフェイスブックで、図案の変更で、第2次大戦中の英雄3人の勇敢な行動が忘れられてしまうのではないかと心配を記した。同報道官は「亡き父は第2次大戦中、ビセンテ・リム准将の指揮下小隊長を務めた。多くが戦死したが生き残った者は解放まで戦い続けた」と語っている。
また、エスコダ氏のおいにあたる歴史家ホセ・エスコダ氏は、まにら新聞の取材に「不当だ。まだ決定を覆す時間はある」と答えた。さらに、ホセ・アバドサントスの親戚にあたるデズリー・ベニパヨ氏は、「千ペソ札から第2次大戦の英雄を外すことに反対するため」オンラインによる署名集めを開始した。すでに1414筆の賛同署名が集まっている。
一方、ロレンサナ国防相は、まにら新聞に対し「肖像を取り替えることはまだ最終決定ではない」と携帯メッセージを返している。マニラ市のモレノ市長は「英雄たちを残すことはできる。フィリピン鷲のような国に固有なもの、国の宝、大切なものは紙幣の裏面に入れるべきだ」と語った。
ホセ・アバドサントスは、フィリピン独立準備政府の最高裁長官だったが、ケソン大統領がマッカーサー司令官とともにコレヒドール島を脱出するときにケソンから大統領代行に任命された。セブ島で日本軍に捕まり、日本軍政への協力を拒否したため、ミンダナオ島で日本軍に銃殺されている。
リム准将は、バタアン陥落時のアメリカ極東陸軍第41歩兵師団司令官だった。陥落後もゲリラ戦を続けたが捕らえられ、斬首処刑された。
ホセファ・リャネス=エスコダは、フィリピンガールスカウトの創立者としても知られる。比米軍人が収容された捕虜収容所に医薬品・食料などを届ける市民運動に従事するが、捕らえられ1945年1月に処刑された。遺体は見つかっていない。
紙幣に肖像を入れるのは、人間が他人の顔の識別に敏感で、少しの違いも見つけやすいという特性を利用したものといわれている。現在、比国内で発行されている紙幣にはすべて比の英雄か大統領の肖像が描かれている。(岡本浩志)