インタビュー 中東緊張は中ロに利益 イラン「民主主義」は機能
比大アジアセンターのセビリャ助教授に米国との緊張が続くイラン、イラクについて話を聞いた
イランと米国などとの間で緊張が高まる中東情勢について、イランをはじめ中東問題の専門家であるフィリピン大のヘネリト・セビリャ助教授に、情勢分析を聞いた。(聞き手は岡田薫)
─イランの現状をどう見ているか。
「私にとってイランは『普通の国』だ。屋外で女性と話すことも頬にキスをすることもできる。国際法や条約を尊重し、国際社会に対する責任を自覚している国と見ている。ただ、イランは外国の干渉を嫌う。米国の中央情報局(CIA)が、民族主義者のモサデク首相の石油国有化阻止に介入、1953年にイランにかいらい政権を築いた。革命を遂げた79年以降のイランは、イスラム教の価値に則って、独自の路線を追求してきた。イランの米国敵視は歴史的必然でもあるが、それを西欧メディアが、国際的責任を欠いた国と報じてきた」
─今回の米国との一連の緊張については。
「米軍に殺害されたコッズ部隊のソレイマニ司令官は、あまり表に出ない人物だったが、『イスラム国』(IS)封じ込めの功績もあり、周辺国からの人望も熱かった。暗殺が彼を一躍英雄に押し上げた。彼はサウジアラビアとの間で『平和の使者』として交渉に当たっていた人物でもあった。彼を米国が他国の領土で殺害したことは国際法やイラクとの同盟関係に背く。トランプ大統領の意図は国内の弾劾の動きから目を逸らすためのものだったと見ている」
「ガソリン値上げや航空機爆破後にイランではデモが起きているが、民主化への過渡期に入ったとは思わない。学生による抗議運動は過去にも繰り返し起きており、むしろイランの『イスラム式民主主義』が健全に機能していることの表れだ」
─イラクについては。
「イラクはサダム・フセインの強権の下で統合を保ってきた。米国を始めとする連合軍がイラクを攻めた2003年のイラク戦争以来、未だ混乱が続いている。イラクでは、今もフセイン時代の方が良かったとの声が多く聞かれる。部族社会が生きていて実社会で力を持つ中東諸国に西欧的な『民主主義』を持ち込もうとしてもうまくいかない一例だ。リビア、アフガニスタンも同様でイランにも言える」
─中東の比人海外就労者(OFW)の状況は。
「イラクでの就労は比政府が認めていないが、実際には多くの家事手伝い女性が他国を経由して入国し働いている。米軍基地の軍関係者もいくらかおり、数は少ないがイラク人と結婚した比人も住む。イランは、高度な技術を持つ熟練労働者以外の外国人を受け入れていない。現在イラン国内にいる約1600人の比人はイラン人と結婚。子どもを育てイラン国籍を保有する比人で、比への帰国はまずない」
「近年紛争に陥ったシリアでも、違法に入国したOFWが800人いたが、彼らを特定し、帰還を促すのに比大使館は多くの労力と危険を被った。戦時下にある地域のOFW帰還支援に、国軍を送るとの選択をとったドゥテルテ大統領はその点では正しいと言える」
─日本の中東での役割と自衛隊派遣についてはどう見ているか。
「日本は国際的に重要で尊敬を集める大国だ。日本経済にも大きな影響を与えかねないペルシャ湾の紛争解決を呼び掛ける当然の資格を持つ。国際社会で力を持つ国として、戦争抑止を広める道徳的義務も持ち合わせている。もちろん米国の同盟国であることは見落としてはいけないが、今回の一連の日本の動きは、自国の利益も考えた行動として自然なことだ。人道的危機に対する日本の役割への期待も大きい」
─中国の動きはどうみているか。
「『一帯一路』を唱えてからこの地域における中国の経済的、政治的なプレゼンスは増している。中国は他国の政治に不介入の姿勢を貫くことで、地域への浸透を図ってきた。一方で介入を続ける米国は地域でイメージ悪化を招いてきた。中国は米国のようにサウジアラビアやイスラエルとの外交のみに偏重せず、イランとも関係を築いている。米国とイランの緊張で利益を得るのはイランの資源を狙う中国、そしてロシアだと言っていい」
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HENELITO SEVILLA 1976年生まれ。ミンダナオ国立大学(マラウィ市)卒。テヘラン大で博士課程修了。イラン滞在は10年に及び、現地の比人コミュニティー代表も4年間務める。2008年からフィリピン大アジアセンターに西アジアのコースを復活。比イラン文化学会会長。