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6月20日のまにら新聞から

ハロハロ

[ 587字|2016.6.20|社会 (society)|ハロハロ ]

「アウェーの洗礼」という言葉がある。特にスポーツにおいて相手チームの本拠地で試合に臨んだ際、嫌がらせや厳しい待遇を受けることだ。私にとってのそれは今から12年前、ある邦人事件の取材だった。現場の警察署で目に飛び込んできたのは邦人の被害者と容疑者の姿。まだ駆け出しだったとはいえ、こともあろうか被害者の話だけ聞いて記事にしてしまった。

      ◇

 後日、容疑者側の親分から「事実関係が間違っている。訴えるぞ」と、マニラ新聞に殴り込みにきた。しかも目の前で大暴れ。これが「マニラの洗礼」なのか。間もなく携帯電話で脅迫メールが連続で送りつけられるようになり、背筋が凍る日々を送った。食事も喉を通らない。マニラに来てまだ2カ月しかたっていなかったが、日本帰国が脳裏をよぎった。

      ◇

 この騒動は「示談」という形で事なきを得たが、それからというもの被害者と容疑者双方の言い分を聞かなくてはこの国で取材が成立しないことを学んだ。取材がしつこくなったこと、相手の話に信ぴょう性があるか否かの判断がある程度できるようになったのもこの経験が大きい。その親分が亡くなったことを最近、知った。騒動以降はよくしてくれた。酒も飲みに行った。もし生前に会うことができたら、最後に一言だけこう伝えたかった。

 「その節は殴り込んでいただきありがとうございました」。合掌。(竹)

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