医師だけが標的?
国税局の脱税告発
コラソン・アキノ政権時代、「フィリピンは本当は豊かな国。貧しいふりをしているだけだ」と言った役人がいたが、この発言は全くの的外れではなかった。もし全国民が税金を適正に納めていれば、比は域内で最も豊かな国の一つとなり、第三世界からの脱出に四苦八苦することもなかっただろう。
残念ながら徴税は、20年以上を経た現在も政府の数ある弱点の一つであり、法制度の穴は民間企業や高額納税者らによる節税、脱税を可能にし続けている。
このような状況下、国税局が医師を標的にした脱税摘発キャンペーンを始めた。英字各紙に「医師の脱税」を告発する意見広告を掲載するなどしているわけだが、けんかを仕掛けられた側の医師会は「なぜ、われわれを狙うのか」と猛反発している。
「なぜ、われわれ?」という問い掛けはもっともだ。なぜなら、医師に限らず弁護士や会計士、建築家、映画俳優、シェフ、国内上位1千社にランクされる企業経営者らの多くも、あの手この手で納税額をごまかしているからだ。さらに言えば、正式な領収書を発行しない雑貨屋の店主やタクシー運転手、性産業労働者、旅行ガイドらも脱税者だろう。
ここで問題なのは、脱税が横行する理由だ。納められた税金の少なくとも4割が汚職に消えると言われてきたが、このような現実が「納税しても、汚職に消えてしまう。だから脱税する」という言い訳を可能にしている。脱税事件の捜査、訴追にも問題がある。小役人や中小企業経営者が脱税で刑務所に入れられることはあっても、政界の大物や大企業経営者が有罪判決を受けたことがあっただろうか。脱税摘発キャンペーンは結構。ただ、国民の大部分が脱税している中で、国税局は医師だけを標的にするべきではない。(7日・タイムズ)