生きるための脱獄
レイテ州の集団脱走
台風ヨランダ(30号)の被害を受け、ビニールシートで雨風をしのいでいるレイテ州パロ町の拘置施設は、収監者の脱走を防ぐことはできなかっただろう。しかし、台風で地域が壊滅した後、拘置施設は最低限の食料や生活必需品を安定して得ることのできる唯一の場所となった。わざわざ脱走する者などいない。
それでも食料が尽きる日が来たに違いない。脱走した収監者182人は、飢えで施設を飛び出したという。高い壁を乗り越える必要もなく、歩いて去って行った。大半は食料を探しに出ただけなので、あっけなく再拘束。しかし何人かは、裁判が遅々として進まない刑事司法制度に対する不満を脱走で体現した。
パロ町では軽犯罪でも判決が出るのに数年かかるという。台風被害で裁判所と記録がなくなった今、公判はさらに長引く。司法機関は2012年以降の台風、事件、洪水、地震などで破損した裁判記録を精査する必要がある。遅々として進まない司法手続きは、正義がないのと一緒だ。最大の不正義は、パロ町のような拘置施設にえん罪で収監されている者たちだ。
同時に、政府は被災地の拘置施設を改修し、これ以上の集団脱走を防止しなければならない。すべての収監者が、濡れ衣を着せられたり、貧しさから犯した小さな犯罪で収監されているわけではない。重大犯罪の被害者たちは、正義の実現を心待ちにしている。
拘置施設の再建と収監者への食料の安定供給は復興支援の優先事項ではないかもしれない。被災地の施設が無理なら、他地域の施設に収監者を一時的に移送することもできる。裁判記録の修復も重要だ。一から書き直さなければならない場合もあるだろうが、事件が監獄の闇に葬られるよりはましだ。(1日・スター)