ハロハロ
高校時代からの旧友の奥方が毎年、翌年の干支(えと)の七宝を作ってプレゼントしてくれた。元大学教授の友と居酒屋で一杯やり、出来上がったばかりの干支を受け取るのが年末の恒例行事だった。それが3年前のとら年でいつの間にか一巡、手元にネズミからイノシシまで十二支を描いた七宝の額がそろった。
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その夫人が郷里の市立美術館で個展を開くことになった。70代後半の上、体調優れぬとのことで、おそらく生涯最後になろうかという七宝展。それは手伝わなくちゃ、受付でもやるよ、と男同士で約束した。ついでに「干支も出展する?」と冗談半分で申し出たら「ぜひ」との返事。そんなわけで帰郷し、展覧会の舞台裏を手伝い、かつ所蔵する十二支を出品した。
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夫人が毎年、一品ずつ制作してくれた遊び心あふれる動物の七宝は、展示されるとメーンの大作を尻目に「かわいい」と好評。展覧会初日、譲ってくれ、作ってもらえないか、などといった女性客の申し込みに作者は悲鳴を上げていた。玄関先に飾る置物代わりに夫人が作ってくれた干支の七宝焼きがこんなに受けるとは!友人も所有者の私も予期せぬ出来事だった。旅の土産でももらうように12年間、軽い気持ちで受け取ってきたが、実は「宝物」を頂いていたのだと気付かされ、あらためて友との絆をかみしめた。(紀)