早すぎるシャンパン
難航する和平交渉
フィリピン政府と反政府武装勢力、モロ・イスラム解放戦線(MILF)の和平交渉について、アキノ大統領とフェレール和平交渉団長はボストンマラソンに例えた表現を用い「あの有名な『心臓破りの丘』というゴール間際の坂を乗り越えた」と発言した。しかし、最近の和平準備会合を振り返ると、その例えには気がかりな点が多い。
和平枠組みは昨年10月に合意し、国際社会から大歓迎された。しかし合意文書には落とし穴がある。一見すると、和平締結に向けた道しるべの印象を与えるものの、付属書では①権限の共有②富の共有③正常化④移行の準備と取り決め——の4分野が協議対象となった。
政府とMILFは3、4両月に和平会合を開き、付属3文書について交渉したが、1つも合意に至らなかった。
デレス大統領顧問(和平問題担当)は枠組み合意の演説で「バンサモロ(イスラム教徒の国)のすべての利害関係者の声が聞き入れられた」と語ったが、時期尚早な発言である。2月にマレーシアのサバ州で起きた流血の事態では、和平交渉の利害関係者である「スルー王国軍」の武装集団が閉め出された。スルー王国の末裔(まつえい)がサバ州の領有権を主張している中で、マレーシアが交渉の仲介役を果たせるのだろうか。
アキノ大統領は和平交渉の過程で「信頼」を強調したが、今日、MILFはその信頼関係に疑念を持ち始めている。
2010年の、「ウィキリークス」が公表したMILF幹部の発言は、的を射ている。「和平プロセスは、(当時の)アキノ上院議員には複雑すぎて理解できないだろう」
我々はシャンパンを開けるのが早すぎたのではないだろうか。(19日・インクワイアラー)