障害は最高裁と国会
和平枠組み合意
イスラム反政府武装勢力モロ・イスラム解放戦線(MILF)との間で調印された和平の枠組み合意は決して、次政権へ残す「和平の遺産」にはなるまい。なぜなら、最高裁と国会により合意の履行が阻止された場合、MILF側は「フィリピン政府に欺かれた」と武力闘争を一層激化させるためだ。
最高裁は2008年、アロヨ前政権とMILFが締結しようとした合意文書に違憲のらく印を押したが、今回の枠組み合意でも、同様の判断を下すと予想される。問題は、合意文書で「枠組み合意履行のため、必要に応じて改憲を提案する」と定められた点。合意履行という行政府の都合に合わせた改憲は、本末転倒と言わざるを得ず、行政府の権限を逸脱している。
さらに、「自治」の枠を大きく超えた政府権限の移譲も違憲性を問われるだろう。その全容はまだ明らかになっていないが、調印式でムラドMILF議長が「(国軍による)占領を終わらせ、バンサモロ(イスラム教徒の国)を再興する」と演説したように、MILF側が「MILFの支配する独立国」樹立を目指しているのは明白だ。
セレノ長官下の最高裁が合憲の判断を出したとしても、国会が合意履行に不可欠な「バンサモロ基本法案」を通さないだろう。人口抑制法案や税制改革関連法案の国会審議すら難航する中、国民の大多数に不人気な基本法案の可決は至難の業だ。さらに、アキノ大統領の任期が後半に入り、次期政権へ政局が動く中、基本法案を支持して墓穴を掘るような議員は少数派だろう。
枠組み合意が、最高裁もしくは国会の手で葬られた時、MILF構成員らの期待は失望と怒りに変わる。そして、国を待ち受けるのは、反政府活動の再激化という悲劇だ。(25日・インクワイアラー、リゴベルト・ティグラオ氏)