同床異夢
利用されるミンダナオ和平
初来比したクリントン米国務長官は首都圏内の大学で行った演説で、比政府とモロ・イスラム解放戦線(MILF)との和平交渉を早期合意させるようアロヨ大統領に求めた。
和平交渉の主要議題「父祖伝来の土地」に関する覚書は、最高裁によって違憲判決が下された。大統領は、任期終了までの和平合意を目指しているが、背景にあるのは国益ではなく、個人の政治的思惑だ。
覚書が実施されていたら、ミンダナオ地方にキリスト、イスラム両教徒地域の線引きが行われていた。そうなれば、憲法が大幅に改正され、戦闘再発の懸念が強まる可能性があった。
覚書が最高裁によってゴミ箱に捨てられた今、大統領の和平問題取り組みは任期切れの「花道」を飾るためではなく、「箔(はく)付け」のためで、それを次期下院選出馬のカードに使うつもりだ。
MILFの要求受け入れのために憲法を改正し、議院内閣制へ移行、首相という権力の座を手にしようとする動きは阻止できないのか。
クリントン国務長官は、米国の意図が他国を利する目的ではないことを十分に承知している。米国が和平プロセスを側面支援するのは、反核条項のある比憲法を改正させ、ジェネラルサントス市に米軍基地を設けるためだ。米国は、インドネシアをはじめ東南アジアのイスラム教徒地域と良好な関係を築き、資源の豊富な土地で存在感を高めようとしている。
比国民はことのほか、米国と特別関係の構築を切望している。だが、米国の思いは比国民の「求愛」とは別のところにある。比国民の和平への願いを裏切る行為は認められない。(17日・インクワイアラー)