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12月30日のまにら新聞から

マングローブが枯死 住民の生活再建にも遅れ

[ 1579字|2006.12.30|社会 (society)|検証2006 ]

重油流出事故

 ビサヤ地方ギマラス州沖でフィリピン史上最悪といわれる海洋汚染事故が発生したのは八月十一日だった。二千キロリットルの重油を満載したタンカー「ソーラー1」(九九八トン)が悪天候の中で沈没、約三十キロリットルが付近の海上にどす黒い帯を作った。しかし、政府は十月十三日、早々と油除去作業の完了を宣言し、今後の海上交通路の設定し直しや住民支援、海洋資源の回復に施策の重点を移した。

 だが、事故から四カ月が経ったギマラス州の現地では油に汚れた土砂の処理は終わっておらず、マングローブの枯死などが目立つ。被災住民たちはまだ補償金も受け取らず、生活再建は容易でなさそうだ。

 重油は事故の翌日には早くもギマラス島など沿岸に漂着し、漁民たちは魚貝類の採取を全面的に禁じられた。澄み切った海に囲まれた海辺リゾートの適地、海洋資源の豊富な島として内外の観光客や研究者を引きつけていた同州だったが、海の汚れは水産業、観光業など住民の生命線を奪う結果となった。

 来年二月には、水深六百三十メートルの海底にかく座しているソーラー1から残留油を抜き取る作業を実施する予定だが、船体からは今も微量の油が流出している。経費は六百万|千二百万ドルかかるという。

 事故原因の調査が進むと、ソーラー1の過積載や点検不十分などの事実が相次いで発覚し、船主・荷主の環境に対する無神経さに批判が集中した。ところが、比政府は国家災害に指定しながら、責任を両者に預け、被災住民への補償も国際油濁補償基金(IOPC)の補償金拠出に依存することになった。

 IOPCは十二月下旬、補償対象者に国営銀行ランドバンクの小切手を渡し始めたが、支払い作業は年を越して来年二月まで行われるようだ。

 ギマラス州災害対策本部は今月二十日、州、町の代表らを集めて会議を開き、IOPCに対して、海を越えたイロイロ州の銀行口座への払い込みは住民に負担がかかるとして、補償金を被害地の町やバランガイ(最小行政区)に届けるよう要請することにした。

 食料も収入も海に依存していて、最も大きな被害を受けたヌエババレンシア町では、漁業関係者ら千八百二十九人が一カ月六千ペソから二万ペソの補償金を申請したというが、まだ決定額も知らず、小切手も受け取っていない。

 同町最南端のラパス・バランガイを訪ねると、漁業歴十五年のノエル・ゲテスラオさん(37)は十月に漁業を再開した。魚は戻りつつあるが、「以前一日五百ペソの収入が、今では一日二百ペソにもならない」と声を落とした。漁業が禁止されていた間、ペトロンの漂着油除去作業で一日二百ペソで働いたが、食料が不足し、そっと漁に出続けたという。

 漁民らは自分たちの収入への影響だけではなく、マングローブの枯死についても訴える。油除去作業を担当したペトロン、比沿岸警備隊を含めた政府機関などは適切な対応が分からず、油の付着したマングローブを放置してしまったという。そのため、同州庁の調べでは、マングローブ六百四十八ヘクタールが汚染された。地面から六十?百八十センチの高さまで油が付着して少しずつ枯れ始めているという。

 同町ロクマヤン・バランガイでは、マングローブの林の中に油の侵入を防いだオイルフェンスが放置され、マングローブは油まみれのままだった。

 国軍災害対策本部(NDCC)のラボンザ本部長は二十八日の記者会見で、「自然の力に任せる」とコメントした。しかし、ロクマヤン・マングローブ協会メンバーで植林に携わってきたグアネト・ガリドさん(51)は「植えた若いマングローブも枯れてしまった」と嘆いていた。

 また、同町は、離島ギワノン島など各地に残された汚染土砂の即時回収をペトロンに求めるため、各バランガイ議長に決議案を提出するよう指示したという。(一ノ瀬愛)

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