名 所 探 訪
カトリック布教の原点
マニラから空路でレイテ州の州都タクロバン空港に到着後、車で六時間ほどひたすら南下すると、レイテ島の最西南端にある南レイテ州パードレ・ブルゴス町に到着する。このひなびた港町からバンカボートでさらに一時間ほど沖合へ向かうと、コバルトブルーの波間に一面緑色のジャングルに覆われた小島が眼前に大きく現れてくる。五百年前、マゼラン遠征隊がフィリピンで初めてミサを行ったというリマサワ島だ。
スペインを出発して世界一周の遠征に出たマゼラン一行は現在のマゼラン海峡を経て、太平洋を横断、サマール島経由で一五二一年三月二十八日にこの島に到着した。そして復活祭の日曜日と重なった同月三十一日に先住民が見守る中、最初のミサが執り行われた。その後のスペインの植民政策と切っても切れないカトリック信仰がここを原点として、フィリピン各地で広まって行くことになる。
現在のリマサワ町は町役場のあるトリアナ・バランガイ(最小行政区)を中心に六つのバランガイから成る。島南部にはその名も「マガリャネス(マゼラン)」と命名されたバランガイがあり、そこでマゼラン一行はキリスト復活を祝うミサを執り行った。
バンカボートで白い砂浜のビーチに到着。白色の門柱の小奇麗なゲートをくぐり、二百メートルほど奥へ進むと、緑したたる芝生と木々に囲まれた中にクリーム色の礼拝堂風の建物がある。左手の丘には最近建てられた教会があり、ちょうど復活祭のミサの最中だった。
マゼラン来訪当時とほとんど変わらないと思われる自然なままの景観を背に、住民たちは三々五々集まってきた。人々の表情は穏和で物静か。大声で話しする人はいない。教会の外に設けられたいすに座った司祭に対して何事か真剣にざんげする娘たちがいた。
「ここはとても静かで平和だ。礼拝堂の中の十字架を見たいのだったら、管理人を連れてくるよ」。友人を教会まで送ってきていた同町在住の運転手、ジョナ・ランボットさん(25)はこう言って二輪車ですぐに管理人を連れてきてくれた。礼拝堂には十字架や実物大の人形で当時のミサの様子が再現されていた。
堂内に偶然入ってきたトリアナ・バランガイ在住の会社員、エリック・カンタさん(30)は「リマサワ町は確かにカトリックの出発点だ。しかし、今では、いくつもの宗教や宗派が町で活動していて、純粋のカトリック信者は減少している」と説明してくれた。
マガリャネス・バランガイを離れてバンカボートに乗り込み、再びレイテ島パードレ・ブルゴス町に向かう。鏡のように滑らかな水面を進みながら、ジャングルに覆われた島の様子に目を奪われた。
その最中、地元のバンカが何隻も近くを通り過ぎて行った。みな満面の笑みを浮かべながらあいさつしてくれた。ふと、マゼランの部隊がなぜリマサワ島で最初のミサを行ったのか、その理由の一端が納得できたような気分になった。(澤田公伸)