カラモアン半島
白砂と岩山が織りなす奇観
ルソン島南部ビコール地方の南カマリネス州にあるピリ空港からイサログ山を北に臨みながら車で一時間ほど走るとスペイン人の血統が今も強く住民たちに残る古都、サンホセ町に着く。その港からバンカボートをチャーターして海上を疾走すること約四時間、カラモアン半島の最先端の岬に到着する。周囲に白砂と岩山が織りなす奇観が拡がり、思わず息をのんだ。一六世紀のスペイン植民統治以前にこの地を踏んだオランダ貿易商人はその景色を「乳のしずく」と呼んだ。その名は今は「ゴタ・デ・レチェ」というスペイン語の地名で残されている。
この岬の周りでまず目に付くのが切り立った石灰岩からなる灰色の岩山の群れ。百メートルをゆうに超える断崖絶壁の岩山が今にも海に落ちそうな気配であちこちに屹立(きつりつ)している。海中から突き出た低い岩山でできた小島はまばゆいばかりの白砂に囲まれている。岬周辺の建物と言えば数軒のあばら屋と礼拝堂ぐらい。旅行者は五百年の時を超えて大航海時代に逆戻りしたような錯覚に陥ってしまう。
圧巻はラホス島である。長さ百メートル足らずの白砂の浜が二つの岩山を浮き橋のようにつなぎ、一つの島を作っている。島に上陸してみると、この「浮き橋」の一部が海を二つに分けていた。西側の静かな内海からは透明なさざ波が押し寄せ、東側の太平洋からは青い荒波がぶつかる。左右同時に拡がる海の景観を楽しみながら、細かい粒子の白砂に触れるとしっとりと冷たかった。
案内してくれた州観光局の職員、ジョビー・ビリャルエルさんは「有名なボラカイ島のビーチの白砂と比べても遜色(そんしょく)ないと思いませんか」と尋ねてきた。「隣の島の白砂はまた種類が違うんです」と話しながら指さす先を見ると、さらに鮮やかな白砂が旅行者を誘っていた。
スペイン人探検家が一六一九年にジャングルをかき分けてこの地を発見。以降、ここは「海ガメが豊富な」という意味の「カラモアン」と呼ばれるようになった。同州カラモアン町役場観光課のジェフリー・サンチョさんは「ボラカイやパラワンに行かなくてもルソン島にこんな素晴らしいビーチがある。ぜひアピールしたい」と力を込めた。
現在、このカラモアン半島を筆頭とする観光開発事業は、日本語教育など人材育成事業、情報技術経済区開発事業と併せて同州政府が進める最優先事業の一つだ。近く予定されている本格調査を踏まえ観光開発マスタープランを作成し、観光客の誘致に本腰を入れるという。
「マニラから離れた地方でも、優れた人材、情報技術(IT)、交通アクセスなどインフラの整備、さらに観光資源を開発すれば投資家を呼び込めるはず」。ルイス・ビリャフエルテ・ジュニア南カマリネス州知事は熱っぽく語った。
帰途、半島南側のラゴノイ湾を西に進むバンカからは左手にカタンドゥアネス島の島影がはっきり見えた。対岸には円すい形のマヨン火山が左前方に鎮座し、古来からの雄大な自然の眺めを見せてくれた。(澤田公伸)