マニラ大聖堂・ステンドグラス
日比を結ぶ縁故も表現
スペイン植民統治下マニラの中心地で欧州型の城郭都市として建設されたイントラムロス。数ある教会の中で、最も由緒があり、フィリピン・カトリックの総本山であるのがマニラ大聖堂だ。週末の聖堂内では結婚式や祝賀行事が頻繁に行われ、人波が絶えることがない。
聖堂内に入ると、広々とした空間や建築装飾の美しさ、アジア最大規模のパイプオルガンなどに目を奪われる。中でも教会の荘厳な雰囲気を醸し出しているのが、全部で百三十四あるステンドグラスだ。日の出から日没まで時間帯によって、差し込む陽光の角度の変化に応じてステンドグラスはさまざまに表情を変える。訪れる人々を飽きさせることがない。
ひときわ目を引くのが、聖堂正面の入り口、真上にある「ローズグラスウィンドウ」と呼ばれる円形のステンドグラスだ。十二枚の花びらを散らしたかのような形のグラスは、色とりどりの美しい光を放つ。
一八七九年に取り付けられたオリジナルのステンドグラスは十六枚のガラスからなっていた。しかし、太平洋戦争末期の一九四五年に戦禍で消失。戦後フィリピン人アーティスト、ガロ・オカンポによって再建された現在のグラスは十二枚で構成され、イエスの十二使徒を象徴しているという。
一方、大聖堂内部の両脇に並ぶ大小八つのチャペルにも計三十三のステンドグラスがある。ステンドグラスの起源は、文盲の人に聖書物語を伝えるため。聖母受胎やイエス誕生など、聖書の主要シーンが描かれている。
右手に五つ並ぶ小チャペルの中央「タデウスの聖ユダ」と、奥から二つ目「ロレンソ・ルイス」にはフィリピンの歴史をモチーフにしたステンドグラスがある。
前者には、一九八六年二月のアキノ政変(エドサ革命)に際し、市民に反マルコス派の国軍将兵を守れと呼び掛け、「革命」をリードした当時のマニラ大司教、シン枢機卿の姿がモチーフにされている。
また「ロレンソ・ルイス」のチャペルにはロレンソ・ルイスのステンドグラスがある。十七世紀初期、日本への宣教に同行して、江戸幕府の弾圧に遭遇。長崎で殉教して、比人初の聖人に列せられたキリシタンである。
ステンドグラスに刻まれたさまざまな歴史上のシーンは、宗教的意義だけでなく、この国の歴史や文化、日本との深い縁に思いをはせる機会を与えてくれている。(佐藤直子)