ヒダルゴ通りのカメラ街
マニアは中古機にわくわく
マニラ市のキアポ教会前の広場を背にして右手にあるヒダルゴ通り。写真屋や中古カメラ店がずらりと並ぶ。マニラ首都圏や近郊のカメラマ二アなら誰でも知っているカメラ街だ。
幅十メートルほどの通りの入り口にはアーチ状の門がそびえ立ち、路上では色とりどりの野菜が売られている。門の内側はちょっとした市場となっており、平日の昼間から大勢の買い物客でにぎわっている。
斜め上方に目をやると、黄、緑、赤色などで彩られた看板がビルの横に据え付けられ、「KODAK」や「FUJIFILM」の文字が目に飛び込んでくる。
道の両側にぎっしりと立ち並んだ露店と写真店の間の歩道は日が差し込まず、雑然とした路地裏のようだ。パンシットを食べる人々や、昼寝をする子供たちがたむろしていた。
左手に見える一番目の店が「Y2K Digital Express」。現像やプリントを主とした店で、フィルムや電池、アルバム、CDなどもショーケースに並んでいる。
フィルムはフジ、コダックをはじめ、日本でもめったに目にすることのない三菱ブランドのフィルムまである。一番の売れ筋はやはりフジ、「ISO100、三十六枚撮り」で一本七十七ペソ。コダックは一本九十五ペソ、三菱製紙製造の「SOLID SOLD」というフィルムは一本六十三ペソ。質はともかく価格は日本と比べるとぐっと安い。
ヒダルゴ通り沿いの店は三つのカテゴリーに分けられる。現像、プリントを主とし、フィルムなども販売する店、カメラの修理を専門にする店、新品のデジタルカメラからスタジオ用のストロボまで扱うカメラ販売専門店だ。計二十五店が軒を連ねている。
カメラマンのデリー・エクスコンデさん(46)は「ここに初めてカメラを買いに来たのはもう三十年も前のこと」と話した。普段は結婚式や集合写真などの撮影をし、首都圏にスタジオも所有しているという。
カメラ街の起源は一九五〇年ごろ、中国系比人男性による現像、プリントの専門店「V︱ART」の開業。店内は、年季の入った白い壁や客待ち用のいすは洗練され、カウンターでは店員が出来上がったプリントを点検していた。
同店オーナーはその後コダックフィルム専門の二号店を開き、新規参入者が相次ぐようになった。一九八〇年代に現在の店舗数になったという。
「V︱ART」に二十八年間勤めるマリア・ルイザさん(48)は「働き始めた時、プリントはみな白黒だった。最近の注文はカラーだけ。五年前に白黒のプリントはやめた」と当時を懐かしんだ。
カメラ修理屋のショーケースには中古カメラが等間隔で置かれ、戦場カメラマンの王道と言われるニコンも今から三、四十年前に発売された「F」や「FE」などをはじめ、歴代のカメラマンが使い込んだ傷跡やさびがカメラボディーに染み付いている。
デジタルカメラが主流となった今、これだけ豊富な中古カメラがそろっているとマニアはわくわくする。(水谷竹秀)