商業中枢の面目担う
マカティ中央郵便局
フィリピン最大の郵便物取扱量を誇るのはマカティ中央郵便局だ。一日に配達する郵便物は十万通前後、取扱額は一カ月平均で約三千万ペソに達し、マニラ市のパシッグ川沿いにある荘厳な建物のマニラ中央郵便局をしのぐ。局舎があるのはマカティ市の一等地、ブエンディア通りとアヤラ通りの交差点。排ガスにすすけた二階建て局舎は背後の高層ビルに押しつぶされそうに立っている。
ここに郵便物が運び込まれるのは午前七時。約三千通が入る大きな南京袋がパサイ市の中央郵便物配送センターなどから運び込まれ、二階で選別作業が始まる。印刷物を含む第三種郵便物、航空便、普通郵便などの部門別に、女性を中心とした局員がゲタ箱状の選別箱に振り分けていく。扇風機がいくつも回り、ラジオの大きな音が響きわたっている。
仕分けられた郵便物は配達係に回る。マカティ市を担当する配達員は全員で九十八人。これで三十九バランガイ(最小行政区)をカバーする。バイクを使えるのは五十三人で、残りは徒歩に頼る。高層建築の林立するビジネス街は郵便物が集中する。このため、各ビルまでの配達に自動車を使い、そこから先の「垂直配達作業」を配達員が担う。
一週間ほどで受取人に届くはずの日本からの航空便が時々遅延する。仕分け作業中のオリーブ・セロンドさん(31)に理由を聞いてみた。「人手が足りないんですよ。今日は第三種郵便物の担当者がヘルニアの手術で欠勤してます」。その日の第三種郵便物の選別作業員は別の部署から応援に駆け付けたセロンドさん一人だけ。背後の置き場には雑誌やパンフレットが入った大型封筒が山と積まれ、どう見ても一日では終わるはずはない。後から後からやってくる郵便物に追いやられて、運悪く「山」の底へと埋まってしまった封筒の仕分け作業は後回しになっていく。遅配の謎はここにあった。
人員不足は配達係も同様に深刻だ。これを補うため、助け合いを意味する「バヤニハン・システム」と呼ばれる相互補完制度を設けている。ある区域の配達員が不在の時は隣接する区域の配達員が配る。しかし、日によって一人当たりの負担は千通以上。配達員らは「フィリピンの金融・商業センター・マカティ」の面目を担い日々汗をかいているようだ。
ご多分に漏れず、フィリピン郵政公社も財政難に苦しんでいる。郵便局の「ナンバーワン」の地位にあるマカティ中央郵便局。しかし、敷地は電力公社とアヤラ財閥からの借り物である。一九八〇年代半ばに建造された局舎の天井に取りつけられた蛍光灯は半分くらいしか点灯していない。局長のアマデオ・トゥラさん(41)は「二十年前に結んだ局舎の無償供与契約は昨年失効した。ここの土地は一等地だし、わたしがここでの最後の局長になるかも」と苦笑いした。(岡本篤)