援助パソコン盗難
比政府側、盗難再発防止策が不十分な状態で日本援助のパソコン配布を再開
日本政府の無償援助でフィリピン全国の公立高校に贈られたパソコン類の連続窃盗事件で、事業実施主体の貿易産業省が、警備員配置など再発防止策が不十分なままでパソコン類の配布再開に踏み切っていたことが二日、同省関係者らの証言で分かった。事件多発地域のルソン島中部では、警備員不在やパソコン教室がないなどの理由で校長や父母が自宅に持ち帰り保管し続けているケースもある。同省は在比日本大使館の配布中止要請を無視する形で今年二月に配布を再開しており、援助受け入れ側の審査・管理体制のずさんさがあらためて露呈した。
貿易産業省は配布再開後の三月上旬、・住民による警備強化・警備員配置・パソコンを机に固定・盗難保険加入・・の四点からなる再発防止策を取ったと同大使館に報告した。
このうち、四月までに実施されたのは・の保険加入だけ。しかも、加入校は事件多発地域にあるルソン島中部パンパンガ、タルラック両州の四十九校にとどまっている。両州の場合、配布再開にあたって援助対象校の関係者が同省に集められ、「盗難保険に入らなければ配布を中止する」と半ば強制的に保険に加入させられた。
援助パソコン類(本体、モニター各十台、プリンター二台など)の総額は一校当たり約三十六万ペソ。保険料は年額三千三百ペソ強で、全額学校側の負担。予算のない学校は父母からの寄付金や校長のポケットマネーを充てた。同島中部にある援助対象校の校長(37)は「保険に入らないとパソコンを渡さないと言われた。仕方なく父母らに頼んで寄付してもらった」と明かす。
・の警備員配置については、予算に余裕のある学校だけが以前から実施しているだけで、「再発防止策として新たに配置した学校はない。(対策が不十分で)危ないと思われる学校は州内だけでも数校はある」(同省関係者)という。
大半の学校は、・の地元住民による警備強化に依存するしかないのが現状。しかし、特別な訓練を受けていない一般市民による警備だけに対応には限界がある。同島中部の高校では、事件発生を予想し地元住民による警備を強化していながら被害に遭った高校も少なくない。
・のパソコン固定については、固定用の穴を開けるなどすると修理保証が無効になることから、新規配布校で実施したケースは一例も報告されていない。このため、同省側はパソコン全体を鉄板で覆って机に固定するなど代替案を検討している段階だ。
同省州事務所の関係者(50)は「一月中旬、首都圏で配布再開のための会合が開かれた。学校現場の再発防止策は不十分で、個人的には配布再開に反対した。最後は『一部地域だけ配布を中止すると事業全体に支障が出る』と本省側に押し切られた」と話す。
再発防止策とは別に、援助パソコンを学校に設置できない学校も出ている。
ルソン島中部のある高校(生徒数約千三百人)には、パソコン教育用教室がない状態で三月一日に援助パソコンが到着した。教室不足のためパソコン教育用に新たに教室を建設するしかないが、建材のブロックは現在も校内に野積みされたまま。
また同校では、今年一月に校長室からパソコン二台などが盗まれたばかり。被害再発への懸念から、校内で援助パソコンを保管できず、校長(51)が自宅で預かっている。校長は「警備員はおらず、地元住民二人が交代で学校周辺を見回っているだけ。あと九年で退職だが、もし援助パソコンを盗まれたら(弁済のため)退職金がなくなるかも…」と不安を募らせていた。
この高校から十数キロ離れた場所にもパソコン用教室未設置の援助対象校がある。この高校では、校長宅が手狭なことから、生徒の父母が自宅で保管している。