軽量高架鉄道1号線
乗って比社会を体感
パラニャーケ市バクラランからカロオカン市モニュメントまでのタフト、リサール両通り沿い約十五キロを走る軽量高架鉄道1号線(LRT1)。一昨年末には車内で爆破テロ事件が発生し多数の死傷者を出した。すりや窃盗も「日常茶飯事」で、外国人には敬遠されがち。しかし、全区間十八駅、走行時間約三十五分の高架上からの眺めは「もう一つのマニラ」を発見させてくれ、フィリピン社会を体感できること請け合いだ。
駅にはエレベーターは設置されておらず、高さ約七メートルの階段を上る。テロ警戒のための荷物チェックを受けて、券売場で磁気カードを購入する。まず、自動改札機が「第一ハードル」となる。カードは裏返しにして差し込まなければならず、初めてだと入れ方が分からず「苦闘」する。
次は、朝夕のラッシュ時の混乱ぶり。定期券制度がなく、券売場前は長蛇の列。これに荷物チェック、階段の幅の狭さが拍車を掛け、昇降客は身動きできなくなる。このため、階段最上部の鉄格子を降ろして、乗客を入場制限することもしばしば。
プラットホームに出ると日本ではおなじみの売店が見当たらない。ホームの幅が四メートルほどしかなく、通行の妨げになるためという。最近話題となったのが「女性専用スペース」の導入。先頭車両の停車位置に標識が置かれ、警備員が懸命に誘導に当たっていた。
列車が到着し、乗客の乗り降りが始まると首都圏の道路と同様、たちまち「渋滞」となる。譲り合うことがなく、車内の乗客も奥に詰めようとしないため。「協調心がない」とされるフィリピン人の性格が表れているが、怒る人がいないのが救いだ。逆にまだ車内に余裕があるのに乗車をあきらめてしまう人が目立つのもフィリピンらしい。
車窓からの風景でマニラのにおいを特に感じさせてくれるのが、マニラ市の下町、キアポからサンタクルスを抜ける辺り。高架と平行して雑居ビルが立ち並び、いかにもごみごみした感じだ。その北に中国人墓地が見えてくる。立派な門構えに二階建ての豪勢な中国式の建物が並び、周囲には花が咲き乱れる。日本の墓地とのあまりの違いに驚かされる。さらに遠方には壮大な中国寺院がそびえ、この国の経済を牛耳る中国系比人の影響力を垣間見ることができる。
LRT運営公社は国と同じく、巨額の累積赤字を抱える。今年七月からは車両の側面を全面カラー広告で覆った列車が走り始めた。現在はシャンプー広告のみを十台だけに導入している。残る八十二台にも拡大しそうだが、「過激な広告は教会などが反発する恐れがあり導入は不可」というのが公社の建前だ。
しかし、建前を貫き通すことができるかは疑わしい。市民からは「広告はカラフルで気に入っている。どのようなものが次に出て来るのか楽しみ」との声が聞こえてくる。(湯浅理)