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9月22日のまにら新聞から

ファンタジー・ランド

[ 1155字|2002.9.22|社会 (society)|名所探訪 ]

外輪山に浮き立つ幻の城

 首都圏近郊の観光地として知られるカビテ州タガイタイ市から車で十五分。タール外輪山の一角に、地域史とは何の脈絡もない「中世の城」が建っている。カルデラ湖を囲む深い緑の中に浮き立つ極彩色の城。完成すれば、フィリピン最大のテーマパーク兼リゾートとなる「ファンタジー・ランド」のシンボル的建造物だ。

 建設計画は、マカティ市に高層ビルが相次いで建った一九九〇年代半ばに立案された。設計は、海外で有名テーマパークのデザインを手がけてきた米国人コンサルタント二人が担当、「ディズニーランド、ユニバーサルスタジオに比肩する世界レベルのアミューズメント・リゾート施設」との触れ込みだった。

 総面積は東京ディズニーランドの約二・四倍、百九十五ヘクタール。ホテル、百以上のアトラクション、巨大プール、恐竜や未来世界を主題にしたテーマパーク、ゴルフコース、スポーツセンターなどを擁する。驚くべきは、これだけの施設、規模を誇りながら完全会員制。国内の一般市民は一切相手にせず、金持ち層や外国人だけに浮世離れした空間とサービスを供する。

 着工許可がそろったのは、アジア通貨危機発生から四カ月後の一九九七年十一月。東南アジア諸国に暗雲が広がる中、一株から取得でき、百株を上限とする会員権の販売が始まった。しかし、五万株、約三十五億ペソの調達計画は挫折、さばけたのは約一万五千株だけ。それでも当初六万九千ペソで売り出された一株の時価は約三倍に上昇。「バブルの雰囲気」を今に残す。

 資金調達と同様、第一︱四期に分けられた工事も難航している。九八年にスタートした第一期工事(カントリークラブとリゾート施設)は二〇〇二年に完工予定だった。しかし、これまでに完成したのは「中世の城」とメーンゲート、小さな公園だけ。リゾートホテルなど主要施設はいまだコンクリートむき出しで、年内完工は絶望的な状況だ。

 開発会社販売局のミニョザ局長(63)が「工事は山を切り開き道を作ることから始めた。土砂崩れの危険性があり降雨のたびに中断している」と話す通り、工事用道路には土砂に埋まり通行不能になった部分もある。

 第二期(テーマパーク)︱四期(ゴルフコース)の着工予定は不明。ベンソン広告・販促担当部長(35)は「これまでは時期を明示したために工事の遅れを会員から指摘された。今言えるのは〇三年までに第一期工事を終了させるということだけ。第二期以降については一切答えない。総事業費も企業秘密」と素っ気ない。

 メーンゲート付近には着工当時に掲げられた会員募集用看板が今も立っている。「あなたも新世界の不動産オーナーに」。はげかけた看板とカラフルな城、外輪山の緑。山間を渡る風の中で「行く川の流れは絶えずして」という古典の一節を思い浮かべた。(酒井善彦)

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