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9月8日のまにら新聞から

カラバオセンター

[ 1130字|2002.9.8|社会 (society)|名所探訪 ]

農村の伝統と生活守る

 フィリピンの田園風景に欠かせない水牛、カラバオ。時折「ググ」と低くうめくだけで泣くことはない。牛舎に何十頭という黒い巨体がひしめいていても、驚くほど静かだ。おっとりした顔で物見高く寄ってくる。

 ヌエバエシハ州の科学研究都市、ムニョス市にあるフィリピンカラバオセンターを訪れた。首都圏からバスで四時間余り、穀倉地帯の平原にこつぜんと四階建ての事務研究棟が現れる。敷地は四十ヘクタール、二百二十頭を収容する牛舎や搾乳棟、飼料作物の畑地を含む大施設だ。

 センター設置の端緒となったのは、エストラダ前大統領が上院議員時代の一九九二年に成立させた共和国法七三〇七号、通称「フィリピンカラバオ法」だ。農務省の機関としてカラバオを改良・普及し、農村の生活向上を図る。農漁民や貧困層から圧倒的な支持を得た前大統領らしいアイデアである。実際、減少していた国内のカラバオ頭数は九四年から増加に転じ、現在、三百万頭を超えたという。

 フィリピンの牛乳自給率は一%にも満たない。大半を酪農大国のオーストラリアとニュージーランドからの輸入に頼っている。こんな中、センターでは今、カラバオを乳用にも利用する計画が進んでいる。田畑の耕運や運搬用の役畜としてのみ使われてきた在来種のカラバオを外国の乳用種と掛け合わせ、牛乳の生産量を増やそうという試みだ。

 乳の集荷・製品化・販売システムも同時に構築されつつある。役畜として使いつつ農村部住民の栄養状態を改善し、さらに現金収入増を目指している。日本の国際協力事業団(JICA)からも専門家ら五人が派遣され、冷凍精子製造や人工授精など技術移転活動を続けている。

 水牛は熱帯だけの動物ではない。現在、在来種との交配を進めているのはブルガリアのミュラー種。短く巻き上がった角と乳量の多さが特徴だ。在来種との雑種第一世代は一日二回の搾乳で平均三リットル得られる。在来種より一リットル多く、乳脂肪分は七%を超える。

 「なぜカラバオ乳にこだわるのか」とセンター長のリベルタド・クルスさん(53)に尋ねた。すると「カラバオはフィリピンの農業システムの一部なのです」との答えが返ってきた。カラバオの能力を使い切ろうという発想だ。つまり、牛乳の自給率向上だけでなくフィリピンの農村の伝統を守ることを重視している。

 立ちはだかる壁はフィリピン人が牛乳をほとんど飲まないことだ。喫茶の習慣がないためか、ミルクの消費も少ない。JICA派遣の安達秀行さん(46)はケニアで一日に三リットルの牛乳のみで生きるマサイ族を見たという。「根付くには世代交代が必要かもしれません」と語った。

 田畑の静かな「重鎮」、カラバオは新たな役割を担おうとしている。(岡本篤)

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