PNR車両修理工場
雑草生い茂る「列車墓場」
雑草生い茂る「列車墓場」 カロオカン市のモニュメント・サークル。ここから車で約十分で、フィリピン国鉄(PNR)の車両修理工場の入口にたどり着く。警備員に工場の所在を尋ねると、右手にある廃棄車両を指さした。赤茶色にさびて窓ガラスもない車両のドア部分が通路になっているようだ。おそるおそる車両内に入り、反対側へ抜けると視界が一気に開け草原の中に飛び出した。
約五ヘクタールの敷地には廃棄された車両群が延々と連なり、思わず息をのんだ。まるで「列車の墓場」だ。機関車、車両はさびつき、車体の塗料は色あせて見る影もない。一面に広がる草原の中に一部は埋もれてしまっている。放置された車両の台車部分の内側から雑草が生い茂り、機関車の先端部にも草が絡みついている。小鳥がぽっかり開いた窓に舞い降り、車両内には犬までいた。
廃棄車両に混ざり、比較的新しい車両がある。作業員らしい人の姿も見える。ここは、廃棄車両だけではなく、故障車両の野外置き場も兼ねているようだ。車両群の奥に見えるトタン屋根に覆われた大きな建物がお目当ての修理工場らしい。「墓場」を見た直後だけにいささか不安な気持ちで中に入ったが、十台近い車両が台の上に乗せられて修理されていた。
同工場を監督する車両整備本部のネストール・メルカド本部長によると、工場にある車両は日本製かインド製。「日本から専門家を送ってもらう必要はない」と技術力には自信を見せたが、財政難で資材が調達できずに困っているという。長雨で地盤がゆるみ脱線事故が頻発している。だが、部品入手に手間取り事故車両の修理が進まない。工場内は既に一杯。「入りきれない車両は野外置き場にやむなく置いている」と説明した。
人件費が歳入の四倍近くに達するPNRの経営危機は深刻だ。作業員の士気にも影響を与えているとみえ、工場内に活気がない。日本の有償資金援助で一九九〇年に建てられた棟では高架クレーンなど比較的新しい設備がある一方、金属板の加工機械などは戦前に導入されたものだった。従業員が踏み板に飛び乗って機械を操作していた。
トタンが一部吹き飛んでしまい日光が直接照り付ける中、老朽化したかじ場で巨大なチェーンを作っていたデニロ・フリアスさん(51)は「仕事に対する希望は何もないね。定年まで職場があるといいんだが……」と不安を語った。溶接作業を監督するフェルナンド・フローレスさん(63)は「昔は七百人ぐらい作業員がいたけど、今は二百人余り。財政難で残業もなくなった」と嘆いた。
PNR再生の大きな妨げとなっているのは路線沿いの違法占拠住民。野外置き場の廃棄車両内でも違法占拠住民が生活していた。作業員からは「違法占拠住民は政府が解決すべき問題」との声が漏れてきた。(湯浅理)