ビラエスクデロ博物館
膨大な農園主コレクション
マニラから南に車で約一時間半、ラグナ州サンパブロ市に広大なココヤシプランテーションがある。国内外から毎日多くの観光客を集めているフィリピン有数の農園リゾート「ビラ・エスクデロ・プランテーション・リゾート」だ。
千ヘクタールを超えるココヤシ農園の中に、人工湖や滝、プールやコテージ、教会や博物館などが散在しており、観光客らは水牛が引っ張る馬車でその施設を移動して行く。人工滝から流れ落ちる水に足をつけて食事できるコーナーは特に人気があり、家族連れがフィリピン料理に舌鼓を打っていた。
最初に案内される教会風の博物館は人影もまばらだが、その収蔵品は一見の価値があった。二代目農園主だったアルセニョ・エスクデロが、一九二〇年代から八〇年代にかけて収集したコレクションで、その品数も多岐にわたっており興味深い。
まず、一階には宗教コレクションが陳列されている。全国のカトリック教会から集めた聖像付き台車や全身象牙で出来たマリア像、またマニラのキアポ教会から一九二〇年代に手に入れた祭壇一式など。いずれもオリジナルな宗教美術品で、重要文化財級のものだ。
また、一九五五年に韓国系アメリカ人芸術家がアルセニョの妻にプレゼントしたという、イエスキリストの昇天を描いた壁掛けに息をのんだ。虫眼鏡でその線や濃淡をよく見ると新訳聖書の内容が極小のアルファベット文字でまるまる書き込まれてあった。
圧巻は二階にある歴代大統領夫妻が実際に使用した正装用のバロンタガログやガウンなどが陳列されているコーナーだ。エミリオ・アギナルド将軍の着た薄青色の軍服からグロリア・アロヨ大統領が着たという純白のドレスまで計二十六着が展示されている。館内案内人のロルナ・バトラナさん(31)が「すべて本人がエスクデロ一族に寄贈したものです。二カ月前にもラモス元大統領からバロンタガログが送られてきたばかり」と説明してくれた。
二階の最後の展示コーナーにはスペイン植民政府を批判したフィリピン革命の英雄、ホセ・リサールのスペイン語詩「最後の別れ」の原本が保存されていた。刑場に向かう直前に記したと言われる。
日本から訪れ、この詩を熱心に読んでいた会社員、佐藤信壽(のぶとし)さん(48)は「スペイン植民勢力の末えいである農園主が財に物を言わせて集めた収集品を見ていると、逆に当時、農民たちがいかに搾取されていたかが想像される」と感慨深げだった。
「ビラ・エスクデロ」の入場料は平日八百ペソ。金、土、日曜日は民族舞踊鑑賞が付いて九百十ペソ。年中無休。問い合わせはマニラ事務所(五二一・〇八三〇)まで。(澤田公伸)