ハロハロ
テレビからはヘリコプターと地上からの映像が延々と流れ続けていた。「大事件か」と一瞬目を見開いてすぐに後悔した。先日亡くなった若手人気俳優(27)の葬送の生中継だった。ご丁寧に、スタジオには人気キャスターが陣取って「〇〇の姿が見えます」「××も来ています」と参列したお歴々を解説していた。
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「たかが若手俳優」と侮るなかれ。彼の祖父は駐インドネシア大使などを歴任した和平交渉のスペシャリスト、マヌエル・ヤン氏。ラモス政権下で、イスラム最大勢力、モロ民族解放戦線(MNLF)と政府の和平合意を導いた人物だ。元大統領の指示か否か、アロヨ大統領も葬儀に駆け付け遺族と握手している写真をマスコミに撮らせた。
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俳優を生む家は政財界でも重要な位置を占めている。キャスター政治家を多数輩出している主要テレビ局も大同小異だ。夭折(ようせつ)を惜しむ大衆とセンチメンタリズムに応えた生中継。その向こう側には地縁、血縁、カネでがっちり結び付いた「フィリピン・エスタブリッシュメント」の世界が広がっている。 (酒)