クネタ・アストロドーム
「帝王」の成功物語を象徴
フィリピン・プロバスケットボールの二〇〇二年シーズンは二月十日に開幕したばかり。パサイ市ロハス大通り沿いの「クネタ・アストロドーム」はケソン市のアラネタ・コロシアムに次ぐ一万人の収容能力を誇り、年間五十試合が催される。市長の座に約四十年あり「パサイの帝王」と呼ばれたパブロ・クネタ氏の肝いりで一九九三年に完成した。このため、市営ながら地元では「クネタ」と通称されている。
バスケットボールはフィリピン第一の人気スポーツ。しかし、日々大混雑する幹線道路に沿った国民的スポーツの殿堂は、排気ガスにまみれ、灰色にくすんでしまっている。競技場入り口はロハス通りに直接面していない。注意していないと行き過ぎてしまう。ジーンズ会社の巨大な看板がビルの側壁を覆っているため、「アストロドーム」の表示は見落とされてしまいそうだ。
この「ドーム」は半球形の屋根をもたない。競技場は長方形の四階建てコンクリートビル。内部をのぞいても、天井を含め通常の体育館と変わらない。多目的のため床面積はバスケットボール・コート一面分を大きく超える。試合がある時は、移動式のゴールが備えられ、その背後にまで座席が迫る。
場内はいささかわびしい雰囲気が漂う。ペンキを何度となく塗り直したいびつなコンクリートの壁。床に染みついた汗の臭い。観客席のシートは破れてスポンジが飛び出したものが目立ち、ひじ掛けは汗を吸って黒く変色している。
しかし、この「ドーム」はクネタ氏の成功物語を象徴するものだ。一九一〇年に生まれ、戦後、理容店経営から身を起こし、市長にまで上りつめた。九七年に退陣した後も市政に隠然たる力を及ぼし続け、一昨年九月に亡くなった。市長時代の末期に建てられた競技場の命名には権力者の思いがこもっている。
スタジアムの観客席で、床を清掃していた作業員、クリスチャン・コショ君(21)に出会った。「一番好きなスポーツはボウリング。バスケットボールの試合は、掃除しながら見るんだ」と話した。「バスケットボール選手になろうと思ったことはあるか」と尋ねると、「あるよ」とはにかみながら答えた。
フィリピン・バスケットボール協会(PBA)に所属するチームは今年二つ増え十二になった。今年韓国で開催されるアジア大会に参加する二つのフィリピン代表チームが国内シリーズにも参戦するためだ。レベルを維持し試合を面白くしようと既存チームは、外国人選手枠を一人から二人に増やした。
汗の臭いの立ち込めるスタジアムで戦うスター選手の姿は子どもたちのあこがれの的だ。クネタ・アストロドームでの試合は二十三日にスタートする。(岡本篤)