官製用品商店街
「公権力」買いませんか?
国軍と国家警察の本部がエドサ通りを挟んで東西に並ぶケソン市クラメ地区。その一角には、「官製グッズ」や軍用品を扱う店が軒を連ねる。その数は大小合わせて二十ほど。
十畳ほどの狭苦しい空間に足を踏み入れると、本皮のにおいが鼻を突いた。軍靴類が床を埋め、壁や天井からはけん銃を入れる革ケースやベルトなどがぶら下がる。ショーケースには、ナイフ類やけん銃のグリップ、警察署や消防署のワッペン、Tシャツ??。人一人がやっと通れる通路を覆うようにして商品が並ぶ。
何人かの商店主に扱っている商品の数を聞いたが、即答できた人はなし。それほど多い。
日本や米国などから輸入された商品もある。日本製は制帽を飾る金色の帯や防じんマスクなど。米国からは、主に迷彩服などの軍用品を輸入しているという。
客の大半は、現役警官や軍人。制服や制帽、階級章など「官給品」を多数扱っているためだ。
弾倉に付ける蛍光色のプロテクターを買い求めていたダニロ・ムニエスさん(42)は、首都圏警察西部本部第七分署に所属する警官。
「正式な官給品だけでは、着替えが足らない。今着ている制服は一式ここで買いそろえた。四年ほど前に制服が変わった時は、貯金をはたいた」と言う。
ムニエスさんによると、官給品の支給は常に遅れ、数も不足気味。自前で予備を買わなければ、きれいにアイロンがけされた制服を毎日身に着けることはできないという。また、サイズが合わないことなどから、正式な官給品を売り払う警官も少なくないらしい。
警官の平均的な制服の価格は、名札や階級章付き一式三千五百ペソ。さらに注文次第で、警視クラスや海兵隊員、消防隊員、交通整理員ら、「公権力」を行使する様々な人間に変身できる。
店主の一人、マイナルド・サルセドさん(30)は「商売だからだれにでも売る。どんな注文も受ける」と言いながらも、「写真撮影用や劇の衣装だけにとどめておいた方が無難。制服で人を恐がらせるより、催涙ガスで身を守ることを勧める」と一本百八十ペソのスプレー缶が並ぶ棚を指差した。 (酒井善彦)