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8月8日のまにら新聞から

バンサモロを平和の手本に 包括合意10周年会議

[ 2264字|2024.8.8|政治 (politics) ]

JICAがバンサモロ包括和平合意10周年シンポジウムを開催。10年の歩みを自治政府発足後の展望を議論した

基調講演を行うバンサモロ暫定統治機構のムラド首相(MILF議長)=7日、東京

 国際協力機構(JICA)は7日、バンサモロ暫定統治機構(BTA)のムラド・イブラヒム首相、ガルベス和平・和解・統合担当大統領顧問、パガンダマン予算管理相兼政府間連携機構(IGRB)共同議長、イクバルBTA教育大臣兼IGRB共同議長、ドゥママ・アルバBTA内務自治大臣を東京に招き、バンサモロ包括和平合意(CAB)締結10周年記念シンポジウムを開催した。バンサモロ自治政府発足のための選挙を来年に控え、登壇者らは、CAB締結10年の歩みを振り返るとともに今後の展望を議論した。

 ▽世界平和のモデル

 ガルベス大統領顧問は「和平合意は数年しか続かないものも多いなか、CABは10年続き、多くの成果を出してきた」と強調。CABには「『政治・立法』と『正常化』の2工程が同時に進んでいるが、来年の自治政府発足をもって政治・立法は完了するものの、正常化工程はまだこれからだ」と説明した上で、「平和とは合意文書や議事録にあるのではなく、雇用創出、学校開設、農地のかんがい、病院増設、ビジネスの開業にある」とのマルコス大統領の言葉を引用。「元戦闘員とその家族、コミュニティーが政治に参画しながら平和な社会で生計を立てられる社会・経済的状態への回復が永続的な平和に肝要だ」と強調した。

 また「2019年のバンサモロ・イスラム自治地域(BARMM)発足以降は大規模な武力衝突は発生していない」としたほか、フィリピン政府が2020~24年の5カ年でバンサモロ・イスラム自治地域(BARMM)の開発に補助金4000億ペソを割り当て、250億ペソの開発基金に充当したことを報告。

 モロ・イスラム解放戦線(MILF)などの戦闘員がこれまで2万6145人武装解除され、残る6000人の戦闘員の武装解除・社会復帰の予算も既に計上されているとした。

 さらに、ローマ教皇庁のチャールズ・ブラウン駐比教皇大使が6月に「バンサモロの和平プロセスは世界中の武力紛争終結のモデルになる」と述べたことを引用し、「新人民軍(NPA)との和平にとってもモデルにもなっている」と説明した。

 ▽リスクと希望

 ムラド首相(MILF議長)は、CABを「制度的な差別、抑圧を是正し、われわれの未来を切り開くための重要な合意だ」と指摘。経済開発の状況について「BARMMの前身のムスリム・ミンダナオ自治地域(ARMM)時代の2018年に55・9%だった貧困率が、21年には39・4%にまで改善し、23年も34・8%に下がり貧困削減が進んでいる」とし、BARMM発足以降に貧困緩和が急速に進展したことを報告しながら、「なおBARMMは比で最も貧しい地域であり、引き続き開発の取り組みが必要だ」と述べた。

 一方で、BARMMが漁業生産で全国の3割を占め、トウモロコシ生産は地域別で国内3位の生産であることを示し、BARMMの産業育成が比経済全体に貢献できることを指摘した。

 正常化プロセスについては「進展はゆっくりしたものだった」としながら、昨年11日にマルコス大統領がMIFL戦闘員などに恩赦令を出したこと、さらに今月7月に大統領がその成果をミンダナオ和平プロセスに組み込むよう関係政府機関に指示を出したことを紹介。「CABを締結した10年前、納得していない人たち、疑いを持っている人たちが多くいた。しかし、正常化は着実に進歩している」との評価を述べた。

 来年に控える選挙については「選挙結果が有権者の権利を反映したものでないと、暴動が発生し分断につながる危険もある」と指摘。その上で、選挙に関する情報提供や有権者教育の取り組みを強化していていることを報告し、公正な選挙実施のために中立の第三者による選挙監視の必要性を説明し、「公正に実施することができれば、自治政府発足選挙は、和解と癒やしの手段になる」と期待を寄せた。

 ▽比日で「金メダル」を

 比・BARMM両政府で作るIGRBの共同議長を務めるパガンダマン予算管理相=南ラナオ州出身=は、パネルディスカッションで、1990年代から日本とJICAが取り組んできた各種のミンダナオにおける社会・経済開発、人材育成協力を紹介。その上で、「BARMMの成功は共同の成果だ。それは、単に比政府とバンサモロ政府の間だけでなく、日本とJICAのおかげでもある」として日本が果たしてきた役割を強調した。

 さらにパリ五輪男子体操で比史上初めて二つの金メダルを獲得したカルロス・ユーロ選手が釘宮宗大さんによって育てられたことに言及し、「われわれはBARMMでも、日本・JICAと共に歴史を作り、平和と繁栄という金メダルを取るだろう」と明るい見通しを示した。

 JICAの宮崎桂副理事長はパネルディスカッションで、今後のバンサモロ地域支援について「自治政府発足選挙を見据え、制度構築、能力開発、元戦闘員の生活改善、インフラ整備といった現在の取り組みに加え、地域経済成長を促すため農業、漁業などの民間セクターへの協力を実施する」と述べた。

 JICAの田中明彦理事長は「ロシアのウクライナ侵攻やガザ地区における人道危機など世界が直面する複合的な課題に直面する今、ミンダナオ和平は平和構築に対する対話のちからを示す灯台となる」と述べるとともに、自治政府発足と平和の永続のために女性・平和・安全保障(WPS)の取り組みを強化する重要性を指摘。継続的なバンサモロ地域への支援を約束した。(竹下友章)

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