「多国間補給も議論中」 アユギン礁緊張激化で海軍
比海軍報道官「多国間でセカンドトーマス礁への補給任務を実施することも議論している」
フィリピン海軍の南シナ海問題担当報道官ロイビンセント・トリニダッド少将は16日、定例記者会見で、比中間で緊張が激化する南シナ海アユギン礁(英名セカンドトーマス礁)への今後の補給任務について「多国間の海上共同活動(MCA)に統合する形で行う可能性はあるか」とのまにら新聞の質問に、「(それも含め)全ての可能性が作戦立案のテーブル上で議論されている」と明言し、「こうした案が承認されたら、適切なタイミングで公表される」と述べた。
アユギン礁の実効支配を継続するため比軍詰め所として座礁させてある旧式揚陸艦「BRPシエラマドレ」への補給妨害による「兵糧攻め」が本格化し、中国による実効支配奪取のシナリオが現実味を帯びる中、南シナ海問題に強いコミットメントを示し続ける米国などに直接的な補給任務への支援を要請する選択肢が、実現性を高めているとみられる。
同座礁艦への補給は毎月実施されているが、5月から中国海警局はこれまで「人道的配慮」として容認してきた食料や水の補給妨害に踏み切っている。先月17日の補給任務ではさらにエスカレートし、海警局が海軍ボートに対し衝突、臨検、拿捕(だほ)、えい航を行ったほか、刃物を振り回して比ボートをパンクさせるなど実力行使を強化。この事件で比職員8人が親指欠損をはじめとした重軽傷を負い、補給は失敗した。
座礁艦配置職員の状態について、トリニダッド少将は「国民の応援、さらには国際社会からの支援のおかげで、 非常に高い士気を保っている」と強調。5月以降補給が途切れている同艦の物資状況については、「まだ補給物資の備蓄が十分にある」と述べた。また、先月17日に失敗に終わった補給以降、補給任務が実施されていないことを確認した。
南シナ海で海軍種間の共同訓練や合同哨戒を実施する「海上共同活動(MCA)」は昨年11月に比米間で初めて実施されたのを皮切りに、同月には比豪間、今年1月に比米間(米空母打撃群参加)、2月に再度比米間、4月には比日米豪間、6月には比日米加間と、2国間・多国間で高頻度に実施されている。
中でも最も多くMCAに参加する米国は、先週にはカールソン駐比大使が補給任務を担う西部司令本部(パラワン州)を訪問しアユギン礁海配置職員とのオンライン会議に参加したほか、5月にはパナタグ礁(英名スカボロー礁)への民間補給事業の決起集会に各国の中で唯一大使館職員を派遣し、また一昨年にはハリス副大統領が米副大統領として初めてパラワン島に赴き、比最大の97メートル級巡視船(日本供与)に乗り込み「南シナ海の威圧行動に対し比と共に立ち向かう」と宣言するなど、南シナ海の領有権・管轄権問題に積極的に関与する姿勢を示してきた。
そんな米国を中国は「南シナ海でのトラブルをたき付けることで比に米国への軍事依存を強めるように仕向け、比の米軍基地化を進めようとしている」と警戒。米国からの補給任務への直接支援が実現すれば、より強力な中国への抑止効果が期待できる一方で、南シナ海での米中衝突リスクが高まることになる。(竹下友章)