日米豪仏加が支持表明 南シナ海仲裁判断8周年
中国の主張を全面的に退けた南シナ海仲裁裁判判断から8周年。日米豪加仏対しが同判断の支持と表明し、比との連帯を呼びかけた
12日、南シナ海に対する中国の主張を全面的に退けた2016年仲裁裁判判断が下されて8周年を迎えた。首都圏マカティ市ではフィリピンのシンクタンク「ADRストラトベース」、米政府、豪州政府が記念イベントを共催。同イベントで過去最大の計281人のゲストが出席した。
午前中のセッションでは、日本の遠藤和也大使、米国のカールソン大使、豪州のユー大使、フランスのフォンタネル大使、カナダのハートマン大使が登壇。同判断が最終的かつ当事国を法的に拘束することを強調し、これに沿った海洋紛争の平和的解決を訴え、連帯して地域の海上安全保障に取り組むことを呼びかけた。
▽比日の共通点
遠藤大使はスピーチで、「国際法に強制力のある法執行メカニズムが十分に備わっていない中で、仲裁判断はルールに基づいた国際秩序の発展に寄与している」と指摘し、基本的原則を共有する諸国が声を上げることの重要性を強調。同盟国、パートナー国、友好国が団結して海洋の保全に取り組むことを呼びかけた。
その上で、「比日両国は戦略的見解を交換するのに適した立場にある」と指摘。①比と日本は長い歴史を持つ民主主義国であるとともに、北大西洋条約機構(NATO)のような多国間安全保障協力枠組みのない地域で米国の同盟国である一方、中国とも歴史的・経済的な結び付きが強い②両国とも東シナ海、南シナ海でそれぞれ類似した困難に直面している③巡視船や海洋状況把握(MDA)能力を高めるレーダーの供与、共同訓練などを通じ協力のレベルを一段階高めている④2国間安全保障強力を共に多国間協力へと拡大している――ことを挙げ、「比日は同盟国、パートナー国と共に切れ目のない協力を通じて、地域の安保アーキテクチャー(構造)を強化する」と地域のキープレイヤーとしての両国の役目を強調した。
講演後のインタビューでは、「8日に署名された部隊間協力円滑化協定(RAA)は南シナ海問題への比政府の対処にどのような助けになるか」とのまにら新聞の質問に、「RAAは両国の部隊の相互訪問を円滑化する。これは、共同訓練や人道支援・災害救援、相互運用性の向上にとって極めて重要であるほか、両国の防衛・安全保障協力も一層促進する」と説明した。
米国のカールソン大使は、同日にブリンケン米国務長官が中国に対し仲裁判断に従うよう求める声明を出したことを発表。さらに10日にはパラワン州の国軍西部司令部を訪問し、比が南シナ海アユギン礁(英名セカンドトーマス礁)に詰め所として座礁させている座礁艦BRPシエラマドレへの配置職員とビデオ会議を行ったことを明らかにした。
さらに、11日にラトナー国防次官補が「比米同盟は世界で最も重要な防衛パートナーに引き上げられた」と述べたことを紹介。同次官補が比日RAAへの署名を受けて、「われわれが追い求めている将来は、インド太平洋地域における同志国間のより大きな部隊間相互運用と協力であり、これは相互アクセスを向上させるとともに、より複雑で大規模な地域的軍事演習への参加、最新の能力(装備)への投資を意味する。そして、比はそうした取り組みの交差点になる」との見通しを示したことを来場者に共有した。
豪州のユー大使は、6月17日に南シナ海アユギン礁で発生した事件を「中国による比船への違法な乗り込み、えい航、装備品の接収、職員への危害は、懸念すべき緊張の激化であり、地域の平和と安定、そして人命を危険にさらし、誤算とさらなる緊張激化を引き起こす」と非難。
その上で、比沿岸警備隊(PCG)と豪国境警備隊が今年協力覚書に署名し、今月、豪国境警備隊の代表が長期派遣員として来比することを紹介。「西フィリピン海(南シナ海で比が権益を持つ海域)の問題は一国だけで直面するものではなく、われわれが集団で海洋安全保障を追及しなければならない問題だ」と強調し、「比は豪州を頼れる」と請け負った。
フランスのフォンタネル大使は「フランスは世界で2番目に広い排他的経済水域(EZZ)を持つ国であり、主権的権利の保全に関して比と懸念を共有している。だからこそ、インド太平洋地域で防衛・安保協力を強化している」と比との共通点を強調。
昨年12月にレコルヌ軍事大臣が仏防衛大臣として初めて訪比し防衛協力覚書に署名し、今年6月17日に駐在武官事務所が開いたことに言及した上で、「訪問軍地位協定(VFA)締結に向けた検討も開始しており、(RAAに署名した)日本の次は、フランスになるよう努力している」と明らかにした。
カナダのハートマン大使は、カナダ政府が去年比に供与した、船舶自動識別装置(AIS)をオフにしている船舶をリアルタイム探知できるレーダーシステムが、「モンスター」と呼ばれる世界最大級の海警局船「5901」(全長165メートル)の追跡に役立っていることを紹介。
さらに、先月日米比との共同活動に参加するなど、カナダがインド太平洋地域へ海軍のプレゼンスを急速に高めていることを紹介。「向こう数カ月内にさらなる海上共同活動への参加を期待している」と述べた。(竹下友章)