中国の行為「野蛮で非人道的」 比政府、事前許可要求に反発
比の南シナ海での補給について中国が事前通知を要請。比は「自国のEEZの行為を通知する義務ない」と反発
南シナ海アユギン礁(英名セカンドトーマス礁)に配置されているフィリピン軍兵士の救急搬送を中国海警局が妨害した事件について、中国外務省の毛寧報道官は7日、「比側が事前に通知すれば、生活物資の搬入や職員の搬出を許可する。しかし、建設資材の搬入は通知があっても認めない」との声明を出した。これに対し、比政府は「自国の排他的経済水域(EEZ)内での活動を中国に事前通知する義務はない」「国際法にも人権にも背いている」などと強く反発している。
5月19日に発生し今月公表された同事件では、病気になった比兵士の搬送が海警局に妨害されたほか、空輸された食料・医薬品の一部が奪われ、海上に投棄された。これまで「人道的配慮」として生活物資の供給は容認するとしてきた中国だが、現在、食料・医薬品の搬入や病人の搬出であっても、事前通知がない限り妨害するところまで実力行使の段階を高めた格好となっている。
国家安全保障会議(NSC)を担当するアニョ安全保障担当大統領顧問は8日に出した声明で、「アユギン礁が比のEEZ内にあることは国際法、2016年の仲裁裁判所判断によって認められている」と改めて強調。救急搬送の妨害に対しては「野蛮かつ非人道的であり、国際海洋法にも基本的人権にも反している」と非難した。中国側の事前通知要請には「不合理、ナンセンスであり、容認できない」と明確に拒否。さらに、「補給品を強奪したという事件も同様に非難されるべきであり、徹底的な捜査と責任追及が必要だ」と述べた。
比沿岸警備隊(PCG)のタリエラ報道官(准将)は8日、「わが国のEEZに不法かつ挑発的に部隊を派遣するような国の許可を求める義務は一切ない。アユギン礁はパラワン島から105カイリに位置し、自国の管轄権が及んでいないという事実に中国は目を向けるべきだ」と指摘した。
「事前通知があっても建築資材の搬入は許さない」との中国の宣言に対し、海軍のロイ・トリニダッド報道官(准将)は9日、「BRPシエラマドレ(座標艦)は比海軍艦であり、(老朽化で)倒壊させるわけにはいかない。中国が何を言おうとも国軍は修繕を続ける」とラジオ番組で明言した。同艦は1999年に座礁して以来劣化が進んでおり、修繕をしなければ倒壊の恐れがあると指摘されている。
▽サンゴが全滅
中国による妨害行為は学術的海洋調査にも及び始めている。PCGは7日、フィリピン大の調査団がアユギン礁から36カイリ西にあるエスコダ礁(サビナ礁)で音響調査をしていた際、海警局による妨害に遭ったことを発表した。同調査は、中国によるサンゴ破壊や人工島建設の兆しが報告されていることを受け、海洋生物の状況把握を目的として3~6日にかけ実施されていたが、調査中に海警局の船舶が現れ水陸両用訓練の実施を宣言。配備したホバークラフトで調査団を威嚇したほか、110メートル級の大型巡視船「海警3303」が危険操船を行った。
調査から帰ったフィリピン大生物学研究所のアンティカマラ教授は「エスコダ礁周辺のサンゴは100%死んでいた」と報告。また、3月に中国から妨害を受けながら実施したパグアサ島での調査にも触れ、「同島でも多くのサンゴが死滅していた。南シナ海の自然破壊は深刻な段階に突入している」と警鐘を鳴らした。(竹下友章)