MDT発動時期を検討 レーザー照射事件で比外務省
中国海警局船レーザー照射事件で比外務省「いつ比米防衛条約を発動するかで協議」
フィリピン外務省のダザ報道官は16日の会見で、中国海警局船が比沿岸警備隊(PCG)巡視船に「軍用レーザー」を照射した事件を受けて、比米相互防衛条約(MDT)を発動するかどうかについて政府内で議論されていることを明らかにした。ただ、現時点で同条約を発動できる状態にあるかどうかについては「まだ早いと思う」とし、「いつMDTを発動できるかについて政府内で協議を行っている」と述べるに留めた。
▽平行線の議論
中国外交部の汪文斌副報道局長は15日の会見で、海警局船がPCG巡視船に失明を引き起こす軍用レーザーを照射したというPCG側の主張に対し反論。
海警局がPCG船に警告、退去を求める過程で「比船との距離と速度を計測し、方向を指示する目的で、携帯用の速度計と緑色光のポインターを使用した。比船員に直接光を向けていない」と強調した。その上で「こうした機器は誰かに対していかなる損害を引き起こすものではない」と断言。「比側の訴えは真実を反映していない」とした。
また14日にマルコス大統領が黄渓連駐比中国大使を大統領府に召喚し直接抗議を行ったことについては、「中国大使は比政府に事実を伝達し、これで比国は実際何が発生したのかを知ることができた」と説明。「中国は友好的な協議を通じて南シナ海問題に適切に対処し、比中両国首脳の合意を履行する準備ができている」とした。
照射された光線が特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の付属議定書4で禁止されている失明を引き起こす軍用レーザーではないと否定した形だが、これに対し、比外務省のダザ報道官は「PCGの報告を疑う理由はない」との立場を表明。
光線の照射を受けた巡視船「BRPマラパスクア」=45・5メートル、日本供与=の乗組員が10~15秒の視力喪失を経験したというPCGの報告書を「支持している」と述べた。
同報道官の発言は、CCWで禁じられる失明軍用レーザーの使用を認定した上で、それでもMDT発動条件を満たしていないとも受け取れる発言となっており、今後議論を呼びそうだ。
▽南シナ海に最大艦派遣
PCGは17日、マルコス大統領の指示で南シナ海南沙諸島にPCG保有艦で最大の「BRPテレサマグバヌア」=97メートル=を1月28日から派遣していることを明らかにした。繁忙期に合わせた漁民保護を理由としているが、大統領公式訪中後に南シナ海で中国船が比公船や漁船を妨害する事件が立て続けに発生したことも関係していると見られる。
PCG保有の97メートル級巡視船は日本が供与した「BRPテレサマグバヌア」「BRPメルコラアキノ」の2隻。
それに対し、中国海警局は76ミリ速射砲2門、30ミリ機関砲1門などを装備しヘリ2機を搭載する「海警2901」=175メートル級=をはじめ、100メートル超えの巡視船(哨戒艦)を約30隻所有しているとされ、「第二海軍」とも呼ばれる。
昨年11月19日に海警局は比が実行支配する南シナ海パグアサ島近海で比海軍船から中国が打ち上げたとみられるロケットの残骸を強奪。12月8日には、比の排他的経済水域内にもかかわらず中国が実効支配するスカボロー礁沖で、110メートル級の海警局艦が比海軍の哨戒艦「BRPアドレスボニファシオ」=115メートル=を追い払ったと報告されており、海警局はPCGだけでなく比海軍を相手に威圧行動を取るだけの実力を誇示している。(竹下友章)