領有権問題
常設仲裁裁判所、9段線に法的根拠なしと判断。スカーボロ礁での漁業権も認定
南シナ海(西フィリピン海)の領有権をめぐり比政府が中国を相手取った仲裁裁判で、常設仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)は12日、中国が領有権主張の根拠としてきた9段線に法的根拠はないとの判断を下した。南シナ海の領有権問題で国際司法の判断が示されたのは初めて。
同裁判所はまた、ルソン地方サンバレス州沖のスカーボロ礁での漁業権などについても、比政府の訴えをほぼ全面的に認めた。
仲裁判断に対して、中国政府は手続きの不当性を指摘し、判断を受け入れない方針を示した。米国、日本、オーストラリアなどを中心とした国際社会は、審理結果を支持し、当事国の比中両国に対して判断に従うよう求めるとみられる。国際司法の判断が下されたことで、今後、中国に対する外交圧力が強まりそうだ。
裁判の中心的争点だった、南シナ海ほぼ全域の主権を主張する9段線について、同裁判所は「歴史上、中国が排他的に支配してきた証拠はない」として、無効性を認定。さらに「9段線の内側にある海洋資源に対し中国が歴史的な権利を主張する法的根拠はない」との判断を示した。
同裁判所はまた、中国が2012年から実効支配しているスカーボロ礁に関し、「比漁師が伝統的な漁業権を有している」と認定、中国政府による漁業妨害行為の違法性を指摘した。
さらに同裁判所は、南沙諸島は、国連海洋法条約(UNCLOS)で「島」と規定されないため、人工島を含む全ての岩礁は領海などを設定できないと判断した。また、「サンゴ礁など生態系に修復不能な損害を与えた」として、中国による人工島造成は同条約締結国に課せられた、海洋環境の保護と保全の義務を侵していると認定した。
約3年半に及んだ審理の結果が公表された12日、ハルデレサ最高裁判事は記者会見し、「政治・外交上の交渉で、説得力のある方針となるだろう」と判断を歓迎。領有権問題の完全解決には「さらなる時間を要す」との考えを示した上で、「ドゥテルテ大統領は、必要な手段を自由に使える状態で任務を全うできる」と強調した。
比政府は2013年1月、中国を常設仲裁裁判所に提訴。仲裁裁判は手続き上、上訴ができないため、今回の判断が最終的な結論となる。(鈴木貫太郎)