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7月16日のまにら新聞から

災害低減で投資促進に期待 比初の遊水地でカビテ州自治体

[ 2466字|2022.7.16|気象 災害 (nature) ]

昨年完成した比初の遊水地について関係者らが建設の経緯と効果への期待を語った

バコオル遊水地の建設記念碑の前で説明を行う公共事業道路省アウレリオ・メンドザ・プロジェクトマネジャー=14日、カビテ州イムス市でロビーナ・アシド撮影

 国際協力機構(JICA)は14日、日本の政府開発援助(ODA)事業として昨年9月に比国内に初めて建設されたカビテ州イムス市の2遊水地=洪水時に一時的に貯水することで洪水被害を軽減する構造物=の邦人メディア向け視察ツアーを実施した。視察には公共事業道路省(DPWH)から同プロジェクトを担当のアウレリオ・メンドザ・プロジェクトマネージャー、コンサルタント業務を受注した建設技研インターナショナルの賀来衆治支社長、カビテ経済特区外国人投資家協会の河野孝代表らが参加し、同遊水地建設の経緯や将来の計画について説明を行った。

 遊水地建設の対象地となったイムス川流域は、上流部の勾配が急であり、また下流低地はマニラ湾の潮位上昇の影響を受けるため深刻な洪水被害が発生しやすい。また、隣接するヘネラルトリアス町とロサリオ町にはカビテ経済特区(CEZ)があり、進出企業からカビテ州での洪水被害対策を求める声も強かった。

 イムス市災害対策本部のヘラルド・フォス調査計画担当官は同市の「97バランガイ(最小行政区)の内、30バランガイに住む人口約10万人が同遊水地によって(洪水リスク低減により)利益を受けた」と説明。また、洪水リスクが低減したことで「イムス市の投資先としての魅力が高まった」と歓迎し、「投資が促進され、経済成長につながると期待している」と述べた。

 2遊水地のうちの一つバコオル遊水地=9・1ヘクタール、貯水量29万平方メートル=が建設されたイムス市のバランガイ・ブハイナトゥービッグのレイムンド・ラミレス議長は「この地区だけでなく、(隣接する)バコオル市の複数のバランガイの洪水被害も既に軽減できている」と報告。最寄りのショッピングモールSMバコオル近辺も「頻繁に浸水していたが、遊水地建設以降は大幅に軽減された」とし、洪水に悩まされてきた低地住民の生活圏内における恩恵の実感を説明した。

 また、長らく洪水被害に苦しんできた同地住民にとって利益が大きいため「建設には特に反対運動もなく、平和的に進んだ」と述べた。

 土地収用はDPWHが担当。メンドザ・プロジェクトマネージャーは「用地収用で苦労したのは住民の転居ではなく、企業所有地の買い取り」だったことを明らかにした。イムス市アナブに建設されたイムス遊水地=40ヘクタール、貯水量213万平方メートル=の建設予定地の多くが元々アヤラコーポレーションの所有。一時、アヤラは所有地に警備員を配置し、政府職員の入域を拒んだ時期もあったという。

 同遊水地の土地の「約4分の3がアヤラの所有地。相場より高い売却価格を提示されたが、交渉を繰り返し取得に漕ぎ着けた」と語った。

 ▽開発コンサルの活躍

 同プロジェクトは、JICA円借款の下、DPWHが施主となり、工事は比企業、コンサルタント業務は日本の建設技研インターナショナル(CTI)が受注した。CTIフィリピン支社の賀来支社長は「日本だったらやらないが、新興国のコンサルは、品質管理、工程管理、支払管理、安全管理まで全て担わなければならない」と説明。

 建設で苦労した点について「日本企業が得意とするコンクリート積みの構造体の建設に比企業は慣れていない。直線的な構造は作れるが、湾曲部分が難しく、建設方法を教えながら、2回壊して作り直した」とし、現場に密着した施工管理を振り返った。更に今回のプロジェクトは構造物(ハード)の建設だけでなく非構造物(ソフト)も重要だったと説明。

 契約は今年終わり、来年州政府に引き渡される予定だが、引き渡し後に州政府が維持・管理できるよう、州政府担当部署のためにマニュアルを作り、トレーニングを行い、専用組織も作った。図面は全て共有した。

 更に、自治体に対し、地理情報システムのフリーソフトであるQGISを使用したハザードマップの作成、それに基づいた避難計画の策定も助けた。

 ハザードマップは「通常は計算して作るが、実は正確ではない。一番正確なことは住民が知っている」。そのため、各バランガイレベルで大雨の後どの道路がどれほど浸水したか情報を集め、実地調査によるハザードマップ作成を支援した。

 ただし「冠水する場所は道路1本建設すれば変化する」ため、継続的なアップデートが必要。「自治体が自分たちの手で引き続き行えるように、能力構築することも重要な仕事だった」と語った。

 2遊水地は25メートルプール4000杯分の貯水が可能で、浸水面積を222ヘクタール減少すると試算されている。建設契約が開始された2016年から3年で完成する計画だったが、コロナ禍などの影響で計画が遅延、昨年9月23日に完成。費用は当初の14億7037万9161ペソから22億3879万8251ペソとなった。

 ▽産業地リスク低減へ

 カビテ経済特区外国人投資家協会河野代表=ハヤカワ電線工業フィリピン・ハーネス工場代表=は2013年の雨季(ハバガット)にCEZを襲った洪水被害の模様を説明。「工業団地の中でも標高が低いエリアでは約1・5メートル冠水した。精密機械、プレス機など何千万もする機械が水に浸かり、使い物にならなくなった。金型も一度水に使ったため直ぐには使えない状態となった」と振り返った。

 ラグナ州に立地する日系の自動車やプリンター、ATMなどの完成品メーカーに部品を納品しているため「2カ月間混乱状態だった」とし、洪水災害が引き起こす広範なサプライチェーンへの打撃を説明。カビテ州における洪水対策事業の進展を歓迎した。

 同経済特区には約300社が入居。うち約100社が日系企業という。

 2018年から円借款事業「カビテ州産業地域洪水リスク管理事業」も始まっており、カビテ経済特区を取り巻くイランイラン川、リオグランデ川の再整備やダム、放水路、転居住民の再居住地の建設を含む計画が進行中。2026年の完工を予定している。(竹下友章、ロビーナ・アシド)

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