台風オデット被災地は今② 「孤島」と化したマクタン島 邦人同士助け合う姿も
台風で孤島となったマクタン島ではレストラン「レイソル」が在留邦人の助け合いの場になっていた
昨年12月16日夜から17日早朝にかけてビサヤ地方を襲った台風22号により、マクタン島(セブ州ラプラプ市)はまさに「孤島」と化した。ほぼ全島で電気や水、通信が停まり、セブの玄関口であり、国際便が多く乗り入れるマクタン空港も19日早朝まで4日間、操業停止を強いられた。
同空港に隣接するウォーターフロントホテルは、一部屋根瓦がはがれ、倒木が道を塞いでいた。中庭では複数の職員が散らばった枝や飛んできたゴミなどを懸命に除去していた。
台風後、ネットのシグナルを探して、空港に住民が殺到したことから一時立ち入りが規制されていたが、その規制も解かれている。個人で発電機を持つ人が充電1回20ペソで電気を売るなど、新ビジネスも始まっているという。
同島のマリバゴ地区を元旦に訪ねると、営業しているリゾートは、ブルーウォーター・マリバゴを含め2カ所ぐらいだった。当初無料で住民に充電などを提供していた同リゾートの職員は「幸い被害は少なく現在も営業はできている。宿泊者は一時的な避難先を求める地元客が大半」という。同地区では当初ガソリンスタンドに4、5時間の列ができ、ガソリンも1リットル120ペソまで跳ね上がっていたというが、元旦前後には列も減り、値段はプレミアム58ペソ、軽油47ペソまでに収まっていた。同リゾート近くで2019年5月から1階にサリサリストア(雑貨屋)、2階にイタリア料理店を構える「レイソル」では、店に顔を出した在留邦人に、お雑煮などを振る舞う光景が見られた。
▽邦人同士助け合う姿も
レイソル店主で神奈川県出身の千尋さんは、海外で働きたい気持ちから2001年にダイビングインストラクターとして来比した。以来、マクタン島で暮らし現地語も堪能だ。台風後、通信が途絶えた中、千尋さんが周辺の日本人を一人一人回って安否を確認した。千尋さん自身営んでいたダイビングショップは屋根が飛んで崩れ、冷蔵庫も離れた場所で見つかった。それでも発電機があるレイソルに来て、食事や携帯電話の充電など必要なものを満たすよう声をかけた。
千尋さんによると、新型コロナ以前にはダイビングショップ同士などの交流は希薄だった。しかし、コロナ禍で旅行客が途絶え、どこも同じ境遇に置かれる中で、徐々に連帯の意識が育まれてきた。そうした場を提供した一つがレイソルだった。レイソルもコロナ禍で客足が減り、方向性の模索を強いられた。2階でイタリア料理を出しながらも、地元の人向けのカレンデリア(簡易食堂)を1階で始め、繁盛していた。
レイソルに来ていた埼玉県出身の斉藤由紀子さんは、7年前に来比してラプラプ市マクタンのダイビングショップで働いていたが、台風でやはり仕事を失った。ラプラプ市でも生活用水に使用する井戸水が汲まれている。マリバゴ地区に飲料水の給水所が設置されたのは12月の終わり。「はじめ誰もが水を求めていたので、このままでは飲み水も手に入らなくなってしまうのでは」と不安な気持ちを抱いたと斉藤さんは明かした。
▽地区のボート9割損失
9年前に渡比し、同地区でダイビングショップとゲストハウスを営む中西新一郎さんによると、海に面したゲストハウスの庭には高波と強風に揉まれたバンカボートが突っ込み、台風通過後の海岸はバラバラになった船の木材などで瓦れきの山と化した。地区では観光に欠かせないボートの約90%が台風で損失したという。中西さん自身、パートナーと計6艘のボートを所有し、対岸のオランゴ島に係留していたが、12月30日に行ってみると5艘は大破していた。クリスマスを前に「マニラのダイビング客から予約が入っていたが、周辺ホテルの閉鎖で全てキャンセルになった」。
中西さんによれば、同地区ではコンティキリゾートの外国人経営者の男性が、台風の最中に外へ出て飛んできた破片が頭部に当たって亡くなっている。また、同島ダプダプ地区にある台風で閉鎖中のビスタマル・ビーチリゾートには28日夜、10数人の強盗グループが入り、家財道具を持ち出して逃げた。警備員も太刀打ちできなかったという。長引く停電下で、治安悪化の懸念もあり、「住民にリゾートを充電用に開放するなどして、人目を多くする工夫も一部でしている」と話した。
一方で、国家災害対策本部は昨年12月26日にビサヤ地方で船舶120隻が、座礁や沈没しているとの被害報告を行っているが、中西さんは「マリバゴ地区やオランゴ島だけでも数百がやられている」と見積もる。また、遠浅の地区ではサンゴ礁への被害報告も上がっている。中西さんは「もう少ししたら、周辺のサンゴ礁への被害も確認していきたい」と観光の要である海中への不安も口にした。(岡田薫)