台風ヨランダ(30号)
台風・地震の被災地調査で浮上した問題点から建設ハンドブックを作成、政府へ引き渡した
国際協力機構(JICA)は5日までに、台風ヨランダ(30号)とボホール地震の被災地での「建物被害調査」で浮き彫りになった問題点を具体的に指摘・改善した「学校施設建設ハンドブック」を作成し、フィリピン公共事業道路省と教育省に引き渡した。
災害対策での日本の有益な協力の一環となるもので、フィリピン政府は政府公認の「ハンドブック」として、全国の学校建設を担う技術者や現場監督らに配布するという。
「建物被害調査」では、施工業者が図面の補足書や工事仕様書をきちんと理解していないことから生じる「ずさんな工事」が原因となって、建物が損壊していたことが判明。一方、日本の無償援助で建設された全357教室については、比の設計基準を採用したものも含めほとんど損壊がなかった。
この調査結果からJICAは、設計基準に大きな問題はなく、現場の工事関係者の設計順守の徹底が「災害に強い建物造り」のカギになると分析した。比政府と協議しながら、建設のための順守事項を図や絵を中心に簡略化したハンドブックを作成した。
JICAは公共事業道路省に千部、教育省に百部をすでに引き渡し、両省はそれぞれ技術者や現場監督、施工業者への研修も実施している。今後は両省が自由に複製し、広く配布されることになる。
ハンドブックには?河川や送電鉄塔から20メートル以上離すなどの建設場所の制限?屋根の強度を上げるための支柱の正しい組み立て方?ブロック塀の正しい組み立て方や硬化に要する時間││などが「よくある間違い」の例示とともに具体的に記載されている。
公共事業道路省作成のチェックリストや、建設許可から建物完成までの行程表なども付され、現場の大工が随時参照しながら建築を進められるよう工夫されている。
ハンドブック作成を請け負った毛利建築設計事務所の比人設計士ティトモイセス・エンシナスさん(57)は、比では工事の段取りを進め、職人に指示する現場監督が工事現場にいない場合も多いと指摘していた。
台風ヨランダでは強風で多くの住宅の屋根が吹き飛び、強度の弱いブロック塀の下敷きになるなどして死傷した人が多い。設計基準の順守を徹底するだけで、守られる命も多いはずだ。
JICAの担当者は、ハンドブックは学校施設に限らず市町村庁舎などの公共施設や一般住宅にも使えると話す。被災地復興を担うアジア開発銀行(ADB)や国連機関、非政府組織などへもデータで渡し、政府公認ハンドブックとして広く利用できるようにするという。 (松本江里加)