台風ヨランダ(30号)
国際協力機構、被災地の建物被害調査で比政府に「現場の設計順守が鍵」と提言
国際協力機構(JICA)は16日までに、昨年11月末から今年1月にかけて、台風ヨランダ(30号)とボホール地震の被災地で行った専門家による「建物被害調査」の報告書を公表した。主な損壊原因としては、施工業者が図面の補足書や工事仕様書を理解していないことによる「ずさんな工事」を指摘。現場大工の設計順守の徹底が災害に強い建物造りのカギになるとし、「分かりやすい建設マニュアル」作りなどでフィリピン政府に提言・協力を行う。
官民学の建築・構造専門家ら8人が2回(11月29日〜12月6日、1月7〜11日)に分けて調査を実施。ビサヤ地方ボホール、レイテ両州の学校、自治体庁舎、公設市場など鉄筋コンクリート構造の公共施設を中心に計30カ所の損壊状況を調べた。
損壊を分析したところ?梁(はり)の高さが違う、柱の形状が不規則など、構造設計そのものの問題?コンクリートブロックやくぎなど建材の品質の劣悪さ?柱に流し込むコンクリートが十分でない、天井板の取り付けミスなど工事のずさんさ││の3点が主な問題として浮上。地震と強風、高潮は建物に与える力が異なるが、三つの問題はボホール、レイテ両州で共通していた。
また米国版を参考にした公共事業道路省の標準設計に大きな問題はないと指摘。?設計図に書き込まれる情報が少ない?製作図を作る習慣がない?施工業者が仕様書を読んでいない?英語で書かれた膨大な仕様書が現場の職人にとって難解すぎる││など、設計から工事現場まで関係者全体の共通理解が築かれていないのが、ずさんな工事につながると分析した。
一方、日本の無償援助で、これまでレイテ、東サマール両州など東ビサヤ地域に建設された公立小学・高校計95校、357教室は台風ヨランダによる建物の構造的な損壊がゼロだった。いずれも1990年代に建設され、完成から約20年が経過している。
2010年以降に教育、公共事業道路両省が主導して建設した新築教室の中には、屋根が根こそぎ吹き飛ばされたり、柱や壁などが崩れた教室があった。一方、日本の無償援助で建設された教室は扉のズレ、屋根の鋼板の端がわずかに反り返るなど軽微な破損にとどまった。
357教室のうち学校校舎建設計画事業(第2期)で建設された279教室は、日本の建築設計事務所が設計を担当した。しかし、第4次教育施設拡充計画事業で建設された残り78教室はコスト削減のため亜鉛鋼板を使った屋根以外は、比の標準設計を採用した。
JICAの校舎建設事業を請け負ってきた毛利建築設計事務所の比人設計士ティトモイセス・エンシナスさん(57)は「設計に忠実に施工すれば、比の標準設計、建材でも災害に強い教室を建てることができると証明された」と話す。
比では工事の段取りを進め、職人に指示する現場監督が工事現場にいない場合も多いと指摘。「仕様書を単純化し、職人の理解を促すことと、現場監督が現場レベルで施工の質を管理することの二つが重要だ」と述べた。
比政府は台風で損壊した公立校の約5千教室の再建を、調査に基づいたJICAの提案に沿って進める計画を発表している。公共事業道路省は台風被害を機に、新たな教育施設の標準設計を作成しており、近く完成する見通し。JICAは政府が主導する技術者や現場監督、施工業者の訓練や、「分かりやすい建設マニュアル」作り、校舎の構造設計などで協力していく方針だ。(大矢南)