被災地復興(下)
台風ヨランダ被災地から職を求め首都圏へ流入する被災者が増加
「今残っているコメが尽きたらマニラに行くしかない」と一人が口にすると、互いにうなずき合った││。太陽が照りつける日中、日差しを避けるようにしてニッパヤシの民家の軒下に集まる女性たちは、不足している食料事情について話し合っている。
台風ヨランダに被災したビサヤ地方サマール州マラブット町では、生計手段がなく家も失った住民が、職を探しに首都圏や都市部に流入し始めている。
同町のバランガイ(最小行政区)・ピナランガでは、台風被災以来2月8日までに、住民全233世帯のうち、20世帯以上の家長が職を探すためにバランガイを出た。バランガイ議長のレネ・カチャロさん(36)は「支援団体から配給された食料が尽きれば、出て行く住民はさらに増えるだろう」と話す。今はまだ週2回ほどの食料支援があるが、配給の頻度は被災直後から徐々に減ってきているという。
首都圏や都市部に出たとして、必ずしも職が見つかる保証はない。国家統計局(NSO)の最新統計よると、2013年10月の首都圏の完全失業率は国内で最も高い10・2%。都市部の企業では大学卒業以上を雇用条件にするところが多いが、サマール島の貧しい地域では、大学へ進学できる住民は少ない。
「職を見つけられない移住者の一部が、首都圏内のスラムや違法居住者エリアに流れ込む可能性がある」と、サマール島から首都圏や海外への人口移動に関する研究者の細田尚美講師(香川大学インターナショナルオフィス)は分析する。
細田さんによると、自然災害が多発するフィリピンにおいて、政府が継続的に東ビサヤ地方の復興に力を入れる可能性は低いという。今は海外からの支援が集まっているが、多くは長く続かず、大多数の被災者は自力で生きてゆく手段を見つけるしかないと予測する。
フィリピンの民主主義政治について研究し、レイテ島の貧困社会についても詳しい日下渉准教授(名古屋大学国際開発研究科)は、サマール、レイテ両島の地域社会構造が台風災害の被害を悪化させた部分もあるという。
両地域の主要産品ココナツ油は、第2次大戦後から有力な輸出品となり、上流層はココナツの加工、輸出で富を蓄積した。ココナツ産業は、上流層が生産者から安価で作物を買いたたき、利益を収奪するといった側面があり、現地社会の貧困拡大につながる要因の一つとなった。しかも、原生林と比べて深く根を張らないココナツ林は、強い風で簡単に吹き飛ばされてしまう。その結果、生計手段をココナツ栽培に依存していた山間部の住民は収入源を失い、被災地の経済活動は停滞。貧困の加速につながっている。
日下さんは「住民がココナツ農業のみに依存せざるをえない社会経済構造を『復興』するだけでいいのか」と疑問を呈し、「災害を機に、住民が別の生計手段も確保して、リスク分散できるようにすることが重要」と話した。
被災した東ビサヤ地域を災害に強い地域へと立て直すためには、被災前から同地域が抱えている貧困や、社会構造の問題点にも取り組む必要が指摘されている。
台風襲来から3カ月がたったというのに、マラブット町の国道沿いには、被災直後の「私たちは多くの支援が必要だ」と大書された看板が風にさらされていた。住民のあまりに悲しい姿を象徴しているかのようだった。(加藤昌平、終わり)